プロローグ 「期待」


 小さなコンテナの上にカードが叩き付けられる。
「ロイヤル・ストレート・フラッシュ! どうだ!」
 格納庫内に声が響いた。
「くぁー、またお前の一人勝ちかよ」
 カードゲームに興じている面々が唸り、コンテナに突っ伏す。
 ストレートやフラッシュ等が提示されていた上で出されたカードに皆が頭を抱えていた。
「俺は勝負運が強いんだよ、残念だったな」
 その仲間の言葉に歯を見せて青年が笑った。その青年の前には勝ち星の代わりにコインが置かれている。
「おい、テュール! 司令が呼んでるぞ!」
「司令が? 何だ? 転属か?」
 格納庫に入って来た同僚の言葉にテュール・ハイエンドは首を傾げた。
 何か小言を貰うような事をしただろうか。いや、した記憶はない。だとしたら何だろうか。
「昇進か?」
 呟きながら立ち上がる。
「左遷だったりしてな」
「それはねぇよ。俺は優秀だからな」
 同僚の言葉に得意気に軽口を叩き、テュールは格納庫を出た。
 四年前に敗退したはずの火星連合軍が動き始めて二月。既に火星圏にいたはずの世界政府軍はその半数以上が敗退し、事実上戦争は火星連合軍が優勢な状況になっている。
 世界政府軍が何か大きな手を打つとしたら、今だろう。遅過ぎず、相手の出方もある程度は予測出来るであろう、今。
「テュール・ハイエンド少尉、転属辞令だ」
「はぁ……」
 司令室で告げられたその言葉に、テュールは生返事を返した。
 いつもはもっと砕けた調子で話すはずの司令官が珍しく儀礼的な口調になっている。それだけ重要な辞令なのだろうか。
「スフィアVで建造中の新造戦艦ナグルファルの部隊に少尉を配属する」
「――新造戦艦!?」
 新造戦艦への転属命令。それはつまり精鋭部隊への配属という事だろう。
「そうだ」
 司令官の言葉に、テュールは笑みが浮かびそうになるのを堪えた。
(――遂に俺もエースパイロットの仲間入りか!)
 モビルスーツの操縦成績は、この基地ではテュールの右に出るものはいない。それが新造戦艦への転属となれば、戦力として見込まれたという事だ。
「専用の新型機も回される予定になっている」
「新型機!? それも専用!?」
 思わず身を乗り出したテュールに、司令官が上半身を後ろに引いた。
(まさか、まさか――!)
 あの、ガンダム・タイプという奴だろうか。エースの中でもかなりの人物でなければ回されない、超高性能機。四年前の戦争では七機のガンダム・タイプが火星連合軍との決戦で決め手になったとすら言われている。
 高性能過ぎるが故に、パイロットを選び、その人物以外ではまともに性能を発揮出来ない、自動的に専用機化してしまう機体だ。
「次の便でスフィアVへ向かわなければならんが、良いかね、少尉?」
「勿論!」
 しっかりと頷き、テュールは部屋を出た。
 次の移動艇が出航するのは約一時間後。急だとも言えるが、それくらい何でもなかった。
(――火連を撃てる! それも、俺が主力としてだ!)
 口元に笑みが浮かぶ。
 そこに存在するのは、純粋な喜びと、火星連合軍に対する敵意。
「うっしゃあ! 行くか!」
 目の前で左手に右拳を叩き付け、テュールは歩き出す。
 その先にあるのは、期待。運が良い、テュールは自分の勝負運の強さに感謝していた。
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