第一部 「許されざる暴挙」 ……時は宇宙世紀0079…… ジオン独立戦争の最中とも言えよう。 連邦軍とジオン軍の戦いも膠着状態に入り、9ヶ月が過ぎようとしていた。 戦いが長引くに連れ、連邦・ジオン共に宇宙へ進出するようになってきた。 あと2ヶ月もすればジオン軍は敗走を免れない。 この圧倒的な不利を打開すべく、ジオン地上軍は、地球のありとあらゆる地帯に進撃。 連邦地上軍との大規模な地上戦に縺れ込んだ。 ジオン地上軍の進撃を食い止めるべく、連邦政府はほぼ全兵力を地上へ向けた……。 ……ここは連邦軍陸戦部隊基地が幾つか建造されている渓谷・グレートキャニオン。 ここは第三番基地。 成り上がりで経験不足な新人が多く、唯一このあたりの防衛力が危ぶまれている基地である。 そこに、数台のMS輸送用トレーラーが数台はいって来た。 その側面には「第06陸戦小隊」と言う字が書かれていた。 そのトレーラーが基地のドックに入れられた後、基地の責任者と06陸戦小隊長との面会があるらしい。 責任者は小太りでひげが濃く、中々貫禄がある。 そして、小隊長は……。 20歳の青年だった。 周囲の基地の整備兵達は一瞬目を疑ったが、その青年の肩にある階級証を見て口を閉じた。 青年の階級は軍曹らしい。 この基地の中のMS隊の中では最も高い階級だ。 責任者は軽く咳払いをして、少年と敬礼を交わした。 「第06陸戦小隊長に任命されたソノ・カルマです。」 カルマと言う青年は責任者に敬礼をかわし、MSの手配を受けたあと宿舎へ向かい、宿の確認をした。 彼の部下となる兵士は、ハリー・シールズ1等兵とクラウディオ・メロ伍長の2人だ。 カルマ軍曹・ハリー1等兵・メロ伍長の3人はMS整備の確認のため、格納庫へ向かう。 格納庫では整備の音でガンガン響き渡り、鉄の匂いがつんと鼻に来ていた。 ハリー1等兵とメロ伍長の二人は使い古しのジムキャノンが2機ずつ配備されており、砲身が威圧的だった。 カルマ軍曹には新品のRGB−79ジムが配備されていた。 このジムは重量装備が施されており、黄土色のカラーとなっていた。 装備は3機とも最近導入された低コスト兵器「マシンガン」。 100mmマシンガンより連射性と精度が高いため,陽動用に使われることが多い。 高い連射性とリロードが比較的簡単な部分が取り柄と言えよう。 陸戦方ジムなどに導入されている100mmマシンガンと比べると威力は随分劣るとのことだ。 翌日、三名の連邦兵士はこの部隊初の任務に当たることとなった。 内容は、ホバートラック3台を戦闘区域外に達するまで護衛すること。 3人はすぐ作戦予定地帯に派遣されることとなった。 「護衛なんて鬱陶しいことやらずに、敵部隊強襲任務に当たりたいぜ。」 出撃直前にそう言ったのがハリー1等兵かメロ伍長かは、当時背を向けていたカルマには解らなかった。 メロ伍長もハリー1等兵も声はそっくりなのだ。 3人はスラスターを起動し、基地を飛び立った。 ……作戦遂行地帯……。 カルマ達はすぐに護衛対象のホバートラック隊を捕捉した。 そしてカルマ達が合流するのを見計らったかのようなタイミングで熱源反応をキャッチした。 MS−06ザク6機。 6機のうちマシンガン装備が5機を占めているが、一機だけバズーカを装備していた。 レーダーに映る反応で方角さえ確認すれば、光るモノアイで大概の位置は掴めてしまう。 「砲撃照準用意!開始ッ!!」 カルマの合図に合わせ、2機のジムキャノンはマシンガン発射とキャノン砲撃を同時に開始した。 モノアイより少し下を狙えば、命中精度の高いマシンガンで容易に胴体を攻撃できる。 胴体さえ破壊してしまえば、より早く決着がつき、敵を近づける間もなく倒すことも可能だ。 そしてマシンガン装備したザク5機は容易に破壊。残るは一機だ。 しかし、その一機はなにかが違う。 先程の5機とは全く比べ物にならないほどの腕だ。 こちらの砲撃を悠々とかわし、猛スピードで突っ込んでくる。 おまけに特殊ジャミングレーダーを使用している。 これではこちらの無線会話が筒抜けなうえ、こちらのレーダーも障害を受ける。 唯一のバズーカ装備であったそのザクはヒートホークを構え、遂にカルマ達の目前にまで来た。 「うわ!あああ!!カ,カルマ軍曹―!!」 突然自分の目前に来た敵を見て錯乱したハリー1等兵はマシンガンを乱射。 流れ弾が護衛対象に当たる結果となった。 そして、金色に閃くヒートホークに首を跳ねられてしまった。 ハリー1等兵のジムキャノンの首が大きく空を舞った。 次の目標はメロ伍長だ。 メロ伍長は冷静にマシンガンをしまい格闘攻撃で応戦するべくザクに飛びかかった。 確実に相手の頭部を狙ったメロの善戦も空しく、ハリー1等兵と同じく首を跳ねられ視界を失ってしまった。 残されたカルマは深呼吸をしてマシンガンを背中のバックパックに収納し、ビームサーベルを抜いた。 赤い輝きを持つビームサーベルを構える黄土色のカルマのジム。 ザクもヒートホークを構え、カルマのジムに猛烈に突進をしかけた。 そしてこの2機のMSは激しく切り結び、猛烈な剣の交戦となった。 お互いのヒートホークとビームサーベルが激しく交錯。 ホバートラック隊はこの2機の闘いの脇をすり抜けるかのように戦闘区域外に達した。 カルマは護衛対象の戦線離脱をシッカリと見届け、ザクのヒートホークを持つ右腕を切り落とした。 左腕にヒートホークを持ち替えようとするザクを見逃さず、左腕も切り落としてしまった。 もはやこのザクに太刀打ちする術はない。 両足も破壊され、動きが鈍くなったザク。 止めを刺そうとビームサーベルを振り下ろすカルマ。 しかし、その攻撃は間一髪かわされ、ザクのコクピットの目前が裂けただけになった。 そして、カルマはそのザクのパイロットを見て驚いた。 そのザクのパイロットは、カルマと同じ位の年頃の青年であったからだ。 「カルマ……と言ったな。俺はサナル・アキト……今回は敗れたが、今後貴様は只ではすまんとそう思え!!」 サナルと言うその男は、部下を脱出させた後、撤退していった。 今回の任務の成果は高く、護衛対象の損害は小さいと言っていいだろう。 カルマ達は基地に帰った後、食堂で奇妙な噂話を聞いた。 それは、「RX―78―2に匹敵するジオンの新型MSが海軍基地で開発されている」と 言うものだった。 RX−78−2と言えば、連邦最強と聞くMSである。 兵力がこちらの30分の1あたりにしか満たないジオン軍にそんなMSは作れまいと誰もが言ったが、カルマは食後も頭の中をその噂話が過っていた。 翌日、朝一番にブリーフィングルームに来たカルマは、基地の責任者・レズン中佐にある任務を課せられた。 それは、つい先程進路を離れて逸れてしまったと言う難民トラックをこの基地まで誘導すると言うものだった。 カルマにとっては椅子に座って水を飲むより簡単な任務だが、朝一番に来たが為に、面倒な仕事を押し付けられてしまったのだった。 しぶしぶカルマはジムを起動し難民トラックが待っているところへ向かった。 もうすぐ例のトラックが肉眼でも確認できる位置へ着こうとした時、カルマは空に立ち上る赤い煙の柱を見つけた。 あれは、民間人が遭難した時などに決まって出す、救難信号のものだ。 「なんてことをしてくれてんだ野郎どもは!!」 カルマはコクピットの中でそう叫んで飛びあがった。 昨日の今日ジオン軍に攻撃された場所であんな派手な信号を撃てば、敵に発見されるのがオチである。 難民トラックの前に着陸したカルマは、急いで外に出ている人たちをトラックの中に入るよう指示し、最短ルートで拠点の第三番基地へトラックを誘導することにした。 それから2・3時間ほど経ち、第三番基地が見えてきた。 単にトラック一つ誘導するだけなのに,やけに疲れる。 流石に苛立ち、歩行するペースが速く鳴り始めたジム。 後一歩で任務達成………と言う瞬間、レーダーがジオン郡の機影を察知した。 ……背後から来ている!!! しかもザクとは全く比べ物にならないほどの熱源と機動性だ!!! カルマはトラックを覆うように伏せてそのジオンMSの第一撃の攻撃をかわした。 ……そのMSは異様な形だった。 尖った肩に図太い脹脛。緑と灰色のカラーに黄色いビームサーベル。 そのビームサーベルの柄はジムと比べて随分長い物であったが、カルマにとってはどうでもいいことだ。 そのMSは猛スピードで突撃を開始した。 カルマはトラックに急いで逃げるよう指示し、ビームサーベルを抜いて応戦。 しかし、サーベルの威力は向こうが数段上であった。 暫くの間ラッシュが続き、カルマが不利になり始めていた。 トラックが到着した頃には、基地の前でジム・スナイパーがMSを狙っていた。 状況を知らないハリー1等兵は近くの整備兵に問い掛けた。 「一体何があったんだ!?」 「カルマ軍曹が襲われた!!昨日の噂のMSと戦ってる!」 「噂ッ……て、ま、まさか……」 そして、ジム・スナイパーの照準がMSのコクピット部分を捉えた。 「コクピット捕捉完了!!迎撃します!!」 「撃つなぁ!!軍曹に当たる!!」 MSを狙おうとするスナイパーのパイロットを制止するレズン中佐。 そして、ジムとMSの鍔迫り合いになった。 MSのほうがサーベルの威力が高いことは既に解っている。 案の定、カルマがピンチだ。 しかし、カルマはそれを見計らっていた。 MSが押しこもうとした瞬間、カルマは敢えて退いてMSの垂直攻撃を回避した。 そしてMSの体勢を崩し、そこへジムのビームサーベルの一閃! サーベルを持っている右腕を破壊した。 こうすればMSはまともな攻撃が出来なくなる。 勝てないと思ったのか、MSは撤退を始めた。 「逃がすかよッ!!」 当然マシンガンで追撃するカルマ。 すると、MSは残った左腕を使って、腰から射撃武器を取り出した。 すると、その射撃武器から、眩いばかりのビームが飛び出してきた。 避けきれず両足を簡単に破壊され、墜落してしまうジム。 そして、あのMSはその間に撤退してしまった。 その後、ジムをハンガーで修理している間に新たな情報が入った。 あのMSは最近ジオン軍で開発された「ゲルググ」と言うものらしい。 今後、戦線に投入されると想定されているとのこと。 それから数ヶ月。第06陸戦小隊らは、連邦軍本部ジャブローへ一時的に赴任することになった。 整備兵や仲間達に挨拶をしたあと、彼らはミデア3機に登場し、ジャブロー基地へ向かった。 ジャブロー機知は森林の奥底にあった。 カルマとハリーとメロは話では聞いていたが、実際がこれほどの軍備基地とは思っていなかった。 そこらじゅうに陸戦方ジムが大量に配備されている。ざっと五千機以上いることだろう。 さすが地球連邦軍本部。 3人は基地にて数人の高官に挨拶した後、MSの点検に入った。 特例としてハリーにはMLガンキャノンが配備され、メロ伍長には陸戦型ジムの特別機が配備された。 そして3人が腹ごしらえをしようと食堂に入った瞬間、爆音と警報が同時に響いた。 ジオンの強襲部隊だ。 連邦パイロットたちは直ちに配備に付き、迎撃に向かっていった。 無論カルマ達も一緒だ。 ジオンの水陸両用MSが多数侵攻して来る。 相手のコクピットをピンポイントで狙い、ビームサーベルで串刺し。 確実にしとめていく。 迎撃を続けるうち、カルマとメロは本部の最深部に辿り着いた。 すると、何の前触れもなく扉が開いた。 そして、ゲルググが現れたのだった。 ゲルググはビームサーベル……いや,ビームナギナタを構え、カルマとメロに宣戦を布告した。 2人も一歩も退かずにビームサーベルを構え、戦闘態勢に入った。 そして、激しいビーム兵器同士の剣の戦いになった。 ビームナギナタと二本のビームサーベルが舞いを舞うかのように激しく交錯し、ぶつかり合う。 ゲルググはいったん距離を置き、威嚇射撃を行った後に、建造物の上に立った。 メロとカルマも後を追い、建造物の上に飛び乗った。 そして、カルマの黄土色のジムと、メロの特別陸戦ジムは、狭い建造物の上でゲルググを挟み撃ちにした。 しかし、ゲルググは負けを知らぬかのように2機の斬撃をナギナタで受け止め、メロを蹴飛ばし、カルマの右腕を切断した。 蹴飛ばされたメロは転落し、右腕を切断されたカルマはサーベルを失ってしまった。 カルマは弾数が残り少ないマシンガンを連射し、ゲルググの動きを僅かに封じ、急いでサーベルが落ちているところへ走った。 メロも体勢を切り返し、ゲルググへ向かっていった。 そして、カルマはシールドを棄ててビームサーベルを回収。 左腕で構えることになった。 そして、先にゲルググに追いついたメロは、ビームサーベルを振るい、ゲルググに立ち向かっていった。 カルマもメロとゲルググが戦っているところへ追いつき、勝負を仕掛けた。 途中、ゲルググの猛攻によってメロの機体は撃破されるが、本人は脱出した。 そして、カルマはメロが使っていたジムの機体を盾に、ゲルググに突進。 一気にメロのジムごとゲルググを串刺しにした。 ……そして、宇宙に戦力を送ったジオン軍を追って、連邦軍が追撃。 戦争は地上にも宇宙にも広がろうとしていた。 ジャブロー防衛作戦が終了した夜……。 カルマは……。 宇宙へ旅立つ第13独立戦隊の旗艦を静かに見守っていた…………。 〜第一部終〜 |
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