第三部 「転生する世界」 人類が増えすぎた人口を宇宙に移民するようになって既に半世紀。 宇宙には数百基のスペースコロニーが浮かび、人々はその円筒の内壁を第二の故郷とし、子を産み、育て、そして死んでいった。 宇宙世紀0079… 地球から最も遠く離れたコロニー「サイド3」はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に対して独立戦争を挑んできた。 開戦から僅か一ヶ月余りの戦いで、総人口の半数が死に至らしめられた。 人々は自らの行為に恐怖した… 宇宙世紀0079年12月。 肌寒い風が吹くこの頃のある地球の渓谷は、グレート・キャニオンと呼ばれる場所だ。 このグレートキャニオンに位置する第三番基地には、数々の戦場を生き抜いてきたソノ・カルマ軍曹率いる第6陸戦小隊が配属されている。 その部隊に新たに配属されたレベッカ・ターナー三等兵は、三番基地に配備された連邦軍正式量産機「ジム」のコクピット内のコンピュータと睨みあっていた。 というのも、彼女はこの人型兵器・MS(モビルスーツ)の操縦経験がまったく無いからであった。 マニュアルに目を通しながら、コンピュータの機能や操縦桿の扱い方、スコープの使い方などを頭に叩き込んでいた。 休憩をしようとコクピットから降りたとき、ふと、カルマとすれ違った。 レベッカは自分から遠のいていくカルマの背中を見つめ、はぁ…と軽くため息をついた。 (そういえば、あの人って私と殆ど同い年なんだよね…なのに、何でこんなに差があるんだろう) その理由は、嫌と言うほど解ってはいた。 ハイスクールを卒業して、まもなく戦闘に巻き込まれてやや強制的にパイロットになったばかりのレベッカと、ルウム戦役を奔走したカルマが同じレベルの筈は無い。 レベッカはその事実を理解してはいても、同年代にあれこれ指図されるのは気に食わなかった。 それでもこんな時代なのだから、仕方がない。 それに、顔も正直好みだ。 そんなところに観点を置いたレベッカは、自分が恥ずかしくなった。 そんなレベッカの関心をよそに、カルマは重大な仕事に取り掛かっていた。 それは、今年の末に砂漠に位置するジオン陸軍基地を総攻撃する最終作戦の準備だ。 カルマは部下のハリー・シールズ一等兵とクラウディオ・メロ伍長と共に、最後の戦闘任務になるであろう今回の作戦に向けて、局地専用MSを開発していた。 「隊長、これがFA−78−2のデータです。」 メロ伍長は、カルマにある書類を渡した。 次に口を開いたのは、ハリー一等兵だった。 「RX−79[G]陸戦型ガンダムにRX−77ガンキャノンの余剰部品を搭載し、FA−78−2のデータを基に開発…ようやく完成しますね。」 三人の前には、赤黒い装甲に身を包む機動戦士が佇んでいた。 カルマはデータの書類越しにその機体を見上げ、静かに口を開いた。 「陸戦型ヘビーガンダム。第6陸戦小隊専用の特別機…」 その頃、連邦軍の攻撃目標とされているジオン陸軍基地には、サナル・アキト大尉率いるMS部隊が配属されいた。 サナルはジオン技術士官に案内されながら、MS格納庫を目指していた。 「連邦のモグラどもに嗅ぎ付かれたと言う情報は事実なのか?」 「ええ…しかし奴らにこの基地は落とせませんよ。」 技術士官に案内されたMS格納庫には、サナル専用にチューンされた砂漠仕様MS「ディザート・ザク」が配備されていた。 「地球連邦…来るなら来るがいい。」 サナルは静かに誇らしげな笑みを浮かべた。 12月30日。 この日は、レベッカにとっては大切な日だった。 なぜなら、この日は彼女のMSでの初陣でもあるからだ。 レベッカは出撃の準備を整えながら、戦争が終わった後の自分を想っていた。 戦争が終わったら、私はどうしているのだろう。 ふとそう想ったとき、カルマから通信が入った。 「君はMSに乗ったのはこれが最初だそうだな?無理なことはするんじゃないぞ。」 「はい…」 カルマはレベッカのしおれた声を聞き、声を掛けた。 「レベッカ。この戦争が終わっても、君は君だ。君は自由になれる。君は無理に俺たちと同じことをしなくてもいい。必ず一つはあるはずさ。俺たちに出来なくて、君にだけ出来ることが。」 カルマの話を聞き、レベッカは静かに頷いた。 私は…私に出来ることをすればいいの… 次々に戦場へ飛び出していくカルマたちに続き、レベッカは乗機のジムを飛翔させた。 ついに、最終作戦であるジオン陸軍基地攻撃作戦が始まった。 戦闘が始まってから、数日が過ぎようとしていた 陸軍基地の吹き荒れる砂塵の中に紛れながら、多くの兵士がMSを駆って戦場へと向かう。 第6陸戦小隊の使命は、基地内部に侵入して通信機器を破壊することだった。 カルマは陸戦型ヘビーガンダムを駆り、ジオン軍陸戦MS部隊に挑んでいった。 その後ろに、ハリーとメロ、そしてレベッカも続く。 カルマの陸戦型ヘビーガンダムはビームライフルを構え、次々とジオン軍のザクを撃墜して行った。 ジオン軍も局地専用重MSドムを投入してくるが、ハリー駆る、陸戦型ジムに切り裂かれてしまった。 すると、第6陸戦小隊の頭上にジオン軍新鋭兵器・陸戦型ゲルググが現れた。 カルマ達はゲルググ隊が降下してくる前に銃撃を浴びせるが、そのうちの一機が迎撃を免れて地面に降り立った。 カルマはビームサーベルを抜き、素早くゲルググを一刀両断する。 「撃墜だッ!!」 しかし、そのゲルググの爆発でのけぞったカルマは、足を踏み外して陸軍基地の奥へ転落してしまった。 「しまった!!!」 「そ、そんな!!カ…カルマッ!!」 レベッカはハリーとメロの制止を振り切り、カルマの救出のため、陸軍基地の通信部まで降下した。 カルマの機体が転落した先は、攻撃目標の通信機器が置かれた通信部だった。 そこに配備されていたMS部隊は現在ほぼ全てが出払っており、警備のMSが一機だけ残っていた。 サナル・アキト駆る、ディザート・ザクだ。 「これで最後だ!!連邦の犬どもめ!!」 「そうやってまたノコノコとおッ!!」 カルマとサナルは、決着をつけるべく、剣を交え、銃を撃ち合った。 カルマのビームサーベルがサナルのザクの首を切り裂いた瞬間、サナルのディザート・ザクがカルマの陸戦型ヘビーガンダムを蹴り飛ばした。 建造物に叩きつけられ、転倒したカルマに止めをささんと、サナルはヒートホークを構えた。 カルマはコクピットだけに狙いを定め、もう一つのビームサーベルを構えた。 サナルのディザート・ザクはヒートホークを構え、一気に突進した。 カルマのガンダムはゆっくりと起き上がり、サナルと同様、一気に走り始めた。 サナルのヒートホークがカルマのガンダムのコクピットを捉えた瞬間、サナルのヒートホークが横から閃いて来たビームに破壊された。 そのビームを放ったのは、他でもないレベッカのジムだった。 ヒートホークを失ったサナルのザクになすすべは無く、そのままビームサーベルで横一文字に真っ二つにされた。 その瞬間、薄暗かった地下の通信部は、一つの光と爆炎によって激しく燃え上がっていった。 そして、カルマとレベッカは、燃え上がるジオン軍陸軍基地から、生還した。 暗闇の地下から飛び出した二人を迎えたのは、1月1日の朝だった。 「これから、どうする?」 カルマはレベッカに問うた。 「これから静かに転生していく、この世界を見つめていたい。あなたと…」 この日、宇宙世紀0080。 地球連邦政府とジオン共和国との間に、終戦協定が結ばれた。 〜Fin〜 |
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