第四話 「戦場、踏み込む時」


 シグルド達、パイロットはブリーフィングルームに集まっていた。その場にいる全員がパイロットスーツを着用している。
「これから作戦の説明を行う」
 ヴィーンが言い、正面に立てられたスクリーンのスイッチを入れた。
 表示されたのは一つのコロニーだった。
「現在、このコロニーは火星軍に占領されている。今回の作戦ではその敵を掃討し、コロニーを奪還する」
 戦艦スキッドブラドニールが前線へと到達してから、数日が過ぎている。
 その間、火星へ向かう最短航路を取っているために通常の航路を離れた結果、今まで敵と遭遇していなかった。そうして今まで進んで来た時、航路上にスフィアUのコロニーを見つけたのだ。しかも、そのコロニーは火星連合軍の占領下に置かれてるらしい。
 スキッドブラドニールの部隊が受けた任務は、火星まで最短距離で直行し、その途中にある敵は全て殲滅せよというものだ。その指示に従い、艦長のシェイズはそのコロニーにいる火星連合軍に対して攻撃する事を決めたのである。
「敵の戦力は?」
 ランディルが手を挙げ、尋ねた。
「現時点での戦力は、前方宇宙港に戦艦が三隻、後方宇宙港に二隻。それぞれのモビルスーツの所有数は不明だが、戦艦一隻につき六体で計算すると三十体の戦力が目安だろう」
 コロニーには宇宙港が二つあり、それぞれ前方後方で区別され、コロニーについているミラーの付け根側のものが後方とされている。
「そんなのを俺らだけでやるのか?」
 ヴィーンに対し、ランディルが苦情を言う。
 いくら腕が良い者が集まった部隊とは言え、五倍の戦力をまともに相手に出来るとは思えない。
「無論、戦闘に参加するのは我々だけではない。政府軍から三隻の増援が手配されている」
 ヴィーンが言い、その戦力をスクリーンに表示する。
 表示されたのはエルトグ級戦艦三隻のスペックと、そのモビルスーツ保有数だった。それとスキッドブラドニールの戦力を合わせて互角の戦力保有数だ。
「増援は前方宇宙港に攻撃を仕掛ける手筈になっている。我々は挟み撃ちになるよう、後方の二隻を叩く」
「……隊長、仮に片方が苦戦を強いられた場合はどうするんですか?」
 フィーユが手を挙げ、問う。
 前方宇宙港か後方宇宙港のどちらかの戦闘が先に終わった場合の対処を尋ねているのだ。
「その場合はコロニー内を通って反対側の宇宙港へと向かい、敵を攻撃する」
 コロニーの外から回り込むように移動するには時間が掛かり過ぎるという事だ。それに、迂回して増援に回るよりはコロニー内を直進して敵の背後を突く方が戦況は優位に傾く。
「コロニー内に敵がいるという可能性は?」
「占領下にあるために内部の確認は取れていない。不明だ」
 続くフィーユの言葉にヴィーンが答えた。
「…では、内部に敵がいた場合は?」
「殲滅する。それが済み次第、増援に向かう事になる」
 ヴィーンが答え、フィーユは納得した様子で口を閉じた。
(まさか、コロニー内で戦闘するのか……?)
 シグルドはその中で唯一人、眉間に皺を寄せていた。だが、一番後方にいたためか、誰もそれに気付いた様子はなかった。
「今から一時間後に出撃する事になる。各員、それまでに準備を済ませろ」
「了解」
 ヴィーンの言葉に全員が答えた。
 そうして、席を立って部屋を出て行く。
「あの、ヴィーンさん……」
「ん? どうしたシグルド」
「コロニー内で戦って、被害が出たらどうなるんですか?」
「……それは、何に対しての事だ?」
 シグルドの質問にヴィーンが訊き返す。
「戦闘に民間人が巻き込まれたら……」
「いいか、シグルド。周囲への被害を減らそうとすれば、それは手加減になる。戦場で加減していては、それが原因でお前が死ぬ事になる」
 シグルドが言い終わるよりも早く、ヴィーンが告げた。
「確かに、犠牲者は少ない方が良い。だがな、俺達は犠牲者を減らすために戦争をしているんじゃあない。戦争を終わらせる事が俺達の目的なんだ」
 言い返せないでいるシグルドにヴィーンが言う。
「俺達軍人は上の命令で動くしかない。その命令に逆らって独断で行動する事で部隊全体が危うくなる事だってある。お前だけが戦っているのならば良いが、そうではないだろう」
「それは……そうですけど……」
 ヴィーンの言葉はもっともだ。
 大きな組織で動く時には、その組織内で勝手な行動を取るものがいれば、それが全体の足を引っ張る事になる。ましてや、命を懸けて戦う部隊でそうなれば部隊が全滅してしまう事だってあるのだ。
「お前はまだ若過ぎる。割り切れとは言わんが、お前が戦うと決めた事だ。その目的だけを考えろ」
 ヴィーンはそれだけ言うと、部屋を出て行ってしまった。
 一人残されたシグルドも遅れてブリーフィングルームを出た。
「聞いてたぜ、今の話」
 ドア脇の壁に寄り掛かるようにして腕を組んでいたランディルがいた。
「ランディ……」
「全く、お前は初歩的なところで迷ってんなぁ……」
「悪かったな」
 ランディルの言葉にシグルドはむっとして答えた。
「まぁ、気持ちは解らんでもない。駆け出しの新米、特に若い奴は皆躓くもんだ。……前にいた部隊の隊長からの受け売りだけどな」
 掛けられた言葉に、シグルドはランディルへ視線を向ける。
「一つ俺が教わった事を教えておこうか」
「ん、何?」
「戦場では敵を人間として見るな。敵はモビルスーツで、それを破壊して行けば良い。俺はそう言われた事がある」
 それは、敵を自分と同じ人間として見る事で生じる、倒した時の罪悪感を軽減させる自己暗示だった。相手が自分と同じ人間である事を考えてしまえば、相手を殺す事で悲しむ人がいる事を知る事に繋がる。
 戦争で戦うという事は、悲しませる人を増やす事でもあるのだ。それでも戦わなければならない状況にいるのであれば、悲しませる人を作り続ける事にもなる。そうして、悲しんだ人が新たな敵となる事だってあり得るのだ。
「まぁ、納得出来なくても、俺達は戦わなきゃならなくなるんだ。それで迷っていて死ぬのも厭だろ?」
「……そりゃあね」
 シグルドは頷いた。
 考えていてもどの道シグルドは戦わなければならない立場にいる。それに、シグルド一人がこの戦闘を拒否したところで作戦が中止になる訳ではない。
 戦うしかない事はシグルドも解っているのだ。だが、だからこそ悩んでしまう。
「まぁ、他の全てをかなぐり捨ててでもどうしようもなく守りたいものがあるってんなら、そのために戦うってのも格好良いと思うけどな」
 ランディルは苦笑を浮かべ、肩を竦めて見せた。
 確かに、それならば悩む必要はないだろう。他の全てを捨ててまで守りたいものがあるのならば、他のものはどうでも良いという事だ。あるにこした事はないが、なくてもいい、そんなものになる。それを切り捨てる事に躊躇う必要はないのだ。
「ま、俺の柄じゃねぇけどな」
「……ランディは何で軍に入ったんだ?」
 ランディルの言葉に、シグルドは尋ねる。
「……それは秘密って事にしとくぜ。あんまり格好良い理由じゃねぇしな」
 それだけ答えるとランディルは床を蹴って先に行ってしまった。
 溜め息を一つつき、シグルドも後を追うように床を蹴って格納庫へと向かった。

 一時間後、パイロットは全員モビルスーツに乗り込んだ状態で待機していた。今回出撃するのはディシール二機をそれぞれ隊長とする三機編成の小隊だ。二機のヴァナを予備機として格納庫に待機させ、敵が接近した場合にのみ出撃させて応戦するという作戦となっている。
 格納庫のハッチは解放され、前方にコロニーが見えている。
「では、全機出撃お願いします」
 通信画面に表示されたエルキューレが告げ、二機のディシールがカタパルトで出撃して行った。それに続いてヴァナが二機出撃した。
 シグルドはガンダムを歩かせ、カタパルトに足を接続させる。
「……シグ、頑張ってね」
 小さな声で告げるエルキューレに、シグルドは目線で頷き、口を開いた。
「――シグルド・ルェンルーザ、ガンダム・レギンレイヴ、出ます」
 カタパルトによる加速が身体をシートに押さえつけ、シグルドは歯を食い縛る。
 重力のない無重力空間では、圧力がかかるのは最初だけだ。直ぐに圧力は収まり、機体は慣性に従ってそのままの速度で進んで行く。
 背部スラスタを使い、前方で編隊を組んでいる仲間に追いつきながら、シグルドもディシールの後方についた。
「敵の出撃を確認した、全機、編隊を崩すな!」
 ヴィーンが通信回線を通して言う。
 見れば、宇宙港から光が伸びるのが見えた。モビルスーツがスラスタを用いた時に見られる光だ。数はおよそ十機。ブリーフィング時の見積もりと同数と考えられる。敵が戦艦護衛用にモビルスーツを残していなければ、の場合だったが。
「……焦るな、今仕掛けてもエネルギーの無駄だ」
 リシクが全員を制した。
 まだセンサーの範囲内に敵は入っていない。今攻撃したところで命中率は極めて低く、エネルギーを無駄に消費してしまうだけで良い事はない。
「――!」
 前方から見えた光がディシールとガンダムの間を通過した。
「まだ撃つなよ! 最低でもセンサーに入るまでは引きつけろ」
 ヴィーンが言う。
 敵が攻撃を開始し、複数のビームがシグルド達に放たれるが、そのどれもが命中軌道にはない。まだ距離があり過ぎるのだ。
 恐らく、攻められているという焦燥と敵がいる事が判るという視覚情報が敵に引き金を引かせているのだろう。距離が近付くにつれて正確になって行く敵の攻撃を、編隊を崩さぬように回避しながら接近して行く。
 敵の狙いが正確になるにつれ、緊張感が高まる。
「各機散開! 互いの距離は随時確認しろよ!」
 ヴィーンが言い、部隊のフォーメーションが崩れた。
 シグルドも加速して横へと回り込み、センサー範囲内に入った敵機へと照準を合わせる。そうして、シグルドはトリガーを引き、ビーム・ライフルを放った。
 銃口から放たれた閃光は照準通りの場所を貫いたが、敵機は回避に成功していた。反撃で放たれたビームを横へ加速して回避し、再度ビーム・ライフルを撃つ。
 その攻撃をシールドで防いだヨトゥンがガンダムへと接近して来た。
「来るっ!?」
 ヨトゥンが迫って来る光景に息を呑む。
 照準を合わせてトリガーを押し込み、ガンダムにビームを撃たせた。だが、致命的なダメージになるであろう部位を守るようにシールドを構えているヨトゥンには効果が薄い。せいぜいシールドの装甲を削ったという程度だ。
「敵機の攻撃が予測されます。注意して下さい」
 AIの言葉に、シグルドは咄嗟に機体を横へ動かした。
 その直後、ヨトゥンの持っているビーム・ライフルから放たれた閃光がガンダムの脇を掠めた。
「敵機接近」
 リング・レーダーが一度赤く光り、敵の接近を知らせる。
 敵の数が多いために、部隊の何人かは二体一で戦う事になるのだ。そんな中、明らかに新型機であるガンダムが二機に狙われる可能性は低いとは言えない。
「そんな、二機!?」
 後方に退がるようにして増援の攻撃を避けたシグルドはリング・レーダーを見て呻いた。
 角度として九十度は離れている敵機が連携を考えているのは確実だ。まだ実戦経験の乏しいシグルドには相当のプレッシャーがかかる。
(落ち着け……シミュレーションを思い出せ!)
 言い聞かせるように口の中だけで呟き、シグルドはフット・ペダルを踏み込んだ。
 加速した機体が、二機の間を通過する。その直後に、左右のペダルを前後に引き離し、機体を急旋回させながら照準を敵に合わせた。
「当たれっ!」
 小さく叫び、トリガーを引く。
 放たれた閃光がヨトゥンの脇腹を貫き、爆発した。敵を撃墜した事を自覚し、シグルドは安堵と同時に自分自身に恐怖を覚えた。
「敵機接近」
 AIの言葉に、シグルドは意識を引き戻される。
 リング・レーダー上のマーカーの方向へ機体の正面を向けるようにして照準を合わせた。盾を構えて接近して来るヨトゥンが、逆の手にビーム・サーベルを握っているのが見えた。
「来るなぁっ!」
 押し込まれたトリガーに連動してガンダムがビーム・ライフル引き金を引く。
 放たれた閃光は盾で防がれ、ヨトゥンがビーム・サーベルで斬りかかった。シグルドは咄嗟に左腕のビーム・シールドを展開し、ビーム・サーベルを受け止める。
 ヨトゥンがシールドを突き出そうとするより早く、シグルドはライフルの引き金を引いていた。
 ビームが敵機の胸部を貫き、近距離で爆発を起こす。前面に張っていたビーム・シールドでそのまま爆発を防ぎ、シグルドは周囲を見回した。
「ブリュンヒルデ、残機は?」
「敵機、三機に減少、味方の被害はなし」
 AIの返答に、実戦経験は薄くとも精鋭である事を改めて確認する。
 その後でリング・レーダーを頼りにシグルドはヴィーン、ランディル機と合流し、宇宙港へと予定通り向かった。その途中でリシクの小隊も追いついた。
 宇宙港まで辿り着いたシグルド達は、閉ざされた隔壁に取り付いた。
「この隔壁を開ければ敵の戦艦がある。気を抜くな」
 ヴィーンが言い、外部から隔壁を開けた。
「……よし、全機突入!」
 一拍あけ、様子を見てからリシクが命じる。
 リシクとヴィーンのディシールがシールドを構えて宇宙港へと飛び込み、シグルド達も続いた。
「――っ!」
 直後、物凄い量の攻撃がシグルド達へ放たれていた。
 宇宙港から外へと向けられていた戦艦の武装全てが放たれたのだろう。
 ミサイルやら主砲の弾丸やらビームやらが雨のように降り注ぎ、シグルドはビーム・シールドを展開して辛うじてその攻撃を凌いで戦艦に接近した。他の機体の盾はビーム・シールドではないため、接近するのに苦労しているようだ。
 ビーム・ライフルからバスターブレードに武器を持ち替えていたシグルドは、バスターブレードに剣状のビームを展開させると同時に戦艦に突き刺した。抉るように一度深く突き、それを上へ振り上げるようにして引き抜く。
 ガンダムはそのまま床を蹴るようにして跳躍し、戦艦中央にある艦橋へとバスターブレードを振り下ろした。艦橋の窓から中が見えるようだったが、シグルドはその中を見ないよう、目を逸らしていた。
 振り下ろされたバスターブレードは艦橋を切り裂き、その戦艦の機能を停止させた。
 一隻分の攻撃が減った事でもう一隻にディシールとヴァナが攻撃を仕掛け、艦橋を破壊して機能を停止させる。機関部に攻撃を撃ち込まないのは、戦艦の爆発で宇宙港を破壊させないための配慮だ。
「隊長、次はどうするんだ? この状況で反対側の宇宙港の様子が解るのか?」
 ランディルが通信回線でヴィーンに呼び掛けているのが聞こえた。
 近距離で全機が通信回線を開いているのだ。状況確認のためだろう。
「待て、今レーザー通信が入った」
 ヴィーンが言う。
 レーザー通信というのは、長距離では通じなくなってしまう通常の通信回線と異なり、レーザーによる長距離直通回線の事だ。
「友軍が苦戦しているとの情報が届いたそうだ。予定通りコロニー内を通り、挟み撃ちを仕掛ける」
「了解」
 ヴィーンの言葉に、シグルド以外の全員が応答した。
 恐らく、今回もシグルドが応じなかった事に気付いたものはいないだろう。
 ディシールを先頭に、宇宙港からコロニー内部へと向かう通路を進んで行く。そうして、コロニー内部へと飛び出したシグルド達は、雲の立ち込める無重力のコロニー中心軸上を進み始めた。
「――VMS−06、フリムスルスを二機確認。VMS−05、ヨトゥンを四機確認。コード不明機を一機確認」
「――!?」
 AIが読み上げた敵機の存在に、通信回線を開いたままでいた全員に緊張が走った。
「やっぱり、中にもいたのね!」
 フィーユが呟くのが聞こえた。
 シグルドは言葉を失っていた。
「全機、散開! 各自敵を殲滅せよ!」
 リシクが叫ぶように指示し、全員がその場から散った。
 直後、ビームが幾筋もその場に走り、リング・レーダーが赤く反応する。ビームが飛来した方向へと味方機が向かって行くのを見て、シグルドは一瞬遅れて後を追った。
 雲の層から抜けた下方に広がるコロニー内部の町並みの中、場違いに見えるモビルスーツが視認出来る。ビームを撃って攻撃して来る敵機一つ一つに、味方が一対一になるように接近して行く。
 一対一に持ち込む事で、連携を防ぎ、一体の敵に集中するためだ。
「高速で接近する機体があります」
 AIの声とリング・レーダーの反応は同時だった。
 レーダーの反応が急接近して来るのに、シグルドの反応は遅れた。
「うわぁあっ!?」
 横合いから襲った強烈な衝撃に、一瞬意識が飛びそうになる。
「な、何だっ!?」
 そのままの速度でガンダムが吹き飛ばされているのに、状況を確認するためにシグルドは視線を向けた。
 視界に入ったのは、人型の機体ではない敵だった。鋏のような大きな腕が左右から伸びた、戦闘機のような機体が、ガンダムを掴んだまま飛行していた。
「新型か!?」
 呻きながら、シグルドは機体を動かそうと試みる。
 しかし、挟まれた機体はその腕から抜け出せず、震えただけだった。
「――ぐぅぅっ!」
 凄まじい衝撃に、シグルドがシートから引き剥がされそうになる。それをシートベルトが押さえつけ、ベルトが身体に食い込む。
 コロニーの地面に接触したのだ。その直前にクローを放し、ブレーキをかけたのだろう、敵機が大きく旋回しながら再度ガンダムへと向かって来るのが視界に入った。その速度は通常のモビルスーツの機動力を超えている。
 人型でない機動兵器はモビルアーマーと呼ばれる。大型の戦闘機等を当初そう呼んでいたようだが、今では人型でないモビルスーツを指す言葉となっているのだ。
 シグルドはベルトが身体に食い込み、シートに押さえつけられたために呼吸困難になり、噎せる。
「……はぁ……はぁ……」
 ようやく落ち着きを取り戻した頃にはモビルアーマーはガンダムを正面に捉えていた。
 真正面のモビルアーマーの前面下部に銃口が見えた。モビルスーツ用のそれを超える、戦艦の主砲並の口径を持つビーム砲だ。
「――くそっ!」
 呻き、機体を起き上がらせたシグルドの視線は、その地面に着けられたモビルスーツの腕に向かった。
 そこには、倒壊した建物の瓦礫が見えた。叩き付けられた機体が建物を押し潰していたのである。
「……!!」
 シグルドは絶句した。敵が来ていると知っているのに、視線が離れない。
 瓦礫の隙間から、人の腕が突き出ていた。
「――優先プログラムに従い、自動回避します」
 AIの言葉が、どこか遠くに聞こえた。
 直後、ガンダムがその場から後方へと跳躍し、敵の放ったビーム砲を回避する。
(……こんな……どうして…!?)
 今、このコロニーは敵の所有している土地のはずだ。それなのに、あのモビルアーマーは、自分の領地の人間が死ぬ事を予測出来ただろうに、構わずに攻撃した。
「警告。戦闘意思が無いのであれば帰艦して下さい」
 AIが告げる。
 回避行動を起こさなかったシグルドの事を言っているのだ。
「……どうして…どうして、この中で戦争なんかするんだ!」
「この場合、戦略的に優位に立つ事が可能なためと推測します」
 シグルドの叫びにAIが冷静に答えた。
 視界ではモビルアーマーが旋回してガンダムへと向き直ろうとしている。スラスタが後方に集中しているために、向きを変えるためには大きく回らなければならないのだ。
(だよな……そうなんだろうな、実際……)
 AIに尋ねた覚えのないものでも、この場にいる相手はAIだけだ。その返答に引き攣った苦笑を浮かべる。
「……ブリュンヒルデ!」
「――イエス」
「高機動モードに移行しろ」
「――了解。フェイズチェンジ、サイド・スラスタ展開」
 シグルドの指示に答えると同時、ガンダムが小さく振動した。
 背部サイド・スラスタが展開し、白く薄い羽根のようなものが折り畳まれていた内部から引き出される。
 前方から迫るモビルアーマーが加速し、突撃して来るのを、シグルドは上部へと飛び上がるようにして乗り越えた。バスターブレードに刃を形成させたまま、シグルドはモビルアーマーへと突撃する。

 通常時には追い付けないはずだったモビルアーマーに、ガンダムが追い付いて行く。
「――!」
 不意に聞こえた右耳からの耳鳴りに、シグルドは機体を右に急旋回させ、バスターブレードを正面に構えた。
 直後、飛来したビームがバスターブレードの刃で打ち消される。突撃して来るヨトゥンが連続して放つビームを、ガンダムは全て回避した。そのヨトゥンがビーム・サーベルに持ち替えた瞬間に、シグルドはフット・ペダルを踏み込んだ。
 身体がシートに押さえつけられるのを無視し、急加速させたガンダムに、ヨトゥンがビーム・サーベルを水平に薙ぐ。
「――!」
 ガンダムはヨトゥンの下に回り込むように上体を逸らし、右手に持ったバスターブレードを横に倒すようにして、ヨトゥンの腹部を切り裂くと同時に敵のサーベル攻撃を避けた。
 逆上がりのようにして体勢を戻したガンダムが翼を左右に開き、空中で停止する。その背後でヨトゥンが爆発を起こした。
 聞こえた耳鳴りに、シグルドはガンダムを上空へと飛び上がらせる。それに一瞬遅れてモビルアーマーが通過した。瞬間的に突き出していたバスターブレードがそのモビルアーマーに突き刺さる。
 直進するモビルアーマーがバスターブレードによって切り裂かれた。半ば程から一直線に背部までの上部装甲を切り裂かれたモビルアーマーが失速して行く。
 その先に住宅街が見えた瞬間、シグルドはフット・ペダルを踏み込んでいた。
 後方に引いたバスターブレードを、モビルアーマーの後方から水平に叩き付ける。モビルアーマを追い越したガンダムは正面に回り込んでど真ん中にバスターブレードを突き刺し、下方へと振り抜いた。
 脇の切断部分から小さく爆発が起きたと思った瞬間、モビルアーマーは爆発し、装甲や破片が周囲に四散した。
「……ブリュンヒルデ、高機動モード解除」
「了解。フェイズチェンジ、サイド・スラスタ閉塞」
 小さく機体が震えた直後、高機動モードが解除された。
「シグルド、無事か!? モビルアーマーは!?」
 呼吸を整えていたシグルドにヴィーンから通信回線が開いた。
「……撃破しました」
 荒い息を繰り返しながら、シグルドは答える。
 一時的に自分の身体を無視して機体を振り回したせいか、身体に大きな負担がかかっていた。
「……そうか、これから味方の援護に向かうが、ついて来れるか?」
「……大丈夫です。行けます」
 答え、シグルドはヴィーン達と合流した。
 宇宙港へと向かい、通路を進んで行ったシグルド達は、目的の宇宙港へと到達した。
「攻撃開始! 味方には当てるなよ!」
 リシクの言葉に、全員が戦艦へと攻撃を集中した。
 ビーム・ライフルでは威力不足だと感じたシグルドは、バスターブレードを射撃形態に変化させ、左右に展開したグリップをそれぞれの手で握らせる。ガイドレール部分が開き、射撃用のバレルへと変化する。
「エネルギー、圧縮開始」
 AIの言葉と同時に表示されたディスプレイ下部に表示されたゲージが少しずつ満たされて行く。
「圧縮率、臨界。発射可能です」
 そのAIの声に、シグルドは引き金を引いた。
 圧縮されたビームが、放たれる。戦艦の主砲の倍近くにも達する出力のビームは戦艦の艦橋を削り取り、宇宙港から外へと突き抜けた。戦艦は文字通り一直線に削り取られ、その機能を停止した。それに、ヴィーン達ですら一瞬動きを止めていた。
 発射したシグルド自身も、これほどの威力があるとは思っていなかったために、言葉を失っていた。
 だが、動きを止めていたヴィーン達も直ぐにもう一方の戦艦に攻撃を集中し、機能を停止させる事に成功する。そうして戦闘は終わった。
 三隻あったはずの敵戦艦はヴィーン達が来た時には二隻しかなく、残りの一隻は宇宙港から外へ出て戦闘に参加していたらしい。その中で味方が撃沈させたようだ。
 スキッドブラドニールはこのコロニーで補給を受けた後、直ぐに火星圏へ向かう直線航路に戻る事となった。
 母艦が宇宙港に近付いて来るのを、シグルド達は宇宙港の縁に立って見つめていた。
「作戦終了だ。全機、帰艦するぞ」
「了解!」
 ヴィーンの言葉に、全員が応じ、ゆっくりと近付いて来る戦艦へと向かって宇宙港の縁を蹴った。シグルドも、一瞬遅れて戦艦へと向かった。
(……戦争、か……)
 既に踏み出してしまった世界を思い、シグルドは息を吐いた。
 やりきれない思いを抱いたままでも、戦い続けなければならないのは、解っている。ならば、そんな事がない世界を導けばいいのだ。だから、シグルドは戦争を早く終結させようと、思った。
 戦争を終わらせるという、エルキューレとの約束は、目的に変わった。
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