5 オーバーウェル


 仕事の最終日、俺はアヴリルと共にグワヒールを操っていた。
 昨日は参った。ルーシーにはなかなか機嫌を直してもらえず、PXで散々買い物をさせられた。殆どが菓子類でルーシーは夕食前後にそれを山のように平らげ、終いには腹を下して何度もトイレに駆け込む羽目になった。
 俺はそんなルーシーの子供っぽさを可愛いと思う反面、少し持て余し気味だった。
 ルーシーがへそを曲げたのはアヴリルのことだけではなかった。
 帰還してコクピットから出た瞬間、メカニック達や、やって来た他のスタッフ達にもみくちゃにされた。仕事が成功しているのが判るとやはり嬉しいものだ。
 だから夕食は大勢に取り囲まれて賑やかになった。それにはルーシーも加わってはいたが、やはり疎外感というか、何か壁のようなものを感じたのだろう、子供はルーシーひとりだし、場違いには違いない。それが余計にルーシーの機嫌を損ねてしまったのだ。
 だが、一夜明けるとルーシーの様子も何とか元に戻っていた。だから俺は少しだけ安心して、こうしてグワヒールに乗ることが出来たのである。
 今日で最後、仕事はきちんと終わらせたい。
 アヴリルと別れるのは少々残念だが、このA.I.が積んだ経験は新型機に移植されて、そのA.I.の性能を上昇させる。そうすることでパイロットの死亡率は低くなり、延いては戦闘によって被る被害も減っていくというわけだ。俺のしていることは最終的には俺達の生活を守る為に重要な意味を担って来ることになる。
 もちろん、戦争なんて起こって欲しくないのは当たり前だ。だが、最近は火星連合の動きもキナ臭く、何時まで生活を続けていけるかも心配だ。
 しかし俺はごく普通の一般人、戦争に直接関わり合いになることはない。こんな仕事を請け負うのは特殊なことなのである。
 イグドラシルが俺を選出しなければ、こんなところにはいなかっただろう。だから不思議なんだと言えるんだが。何故、イグドラシルが俺を選んだのか。それについてはあのジェノバ・ラウトゥーンも何かを隠しているような節はある。
 まあ、それもあと数時間で終わりだ。最初はそのまま帰して貰えるのか不安だったが、帰還の為のシャトルが既にカルナバルに到着していた。俺達を運ぶ為である。どうやら俺達は無事に帰ることが出来そうだ。取り越し苦労だったことに俺は安堵した。
 俺が後、しなければならないことは、仕事をちゃんと終わらせることだけである。
 プログラムは順調に消化されていった。
 アヴリルは当初に比べてもずっと頭も良くなり、機体制御も火器管制も情報の収集分析も格段に進歩していた。これならば旧式MSでも〇二二五年には実戦配備が予定されている世界政府軍の量産機、ヴァナにだって勝てそうな気がする。それだけアヴリルの性能は高くなっていた。
 グワヒールは昨日破壊した破片のデブリが集まる、通称、デブリ帯付近に到着した。ここは重力均衡点の中でも更に摂動によって周囲のデブリが集まり帯を作っている重力の集中点である。
 各スフィアにはこういう場所が幾つか存在する。地球や月、他の惑星の重力や、地球の自転や太陽の公転から起こる遠心力によって複雑に絡み合った重力のスポットである。
 このデブリ帯は完全な政府の管理下に置かれていて、民間の人間が立ち入ることは普通は出来ない。もしここに入ることが出来れば山のようなジャンク・パーツが手に入るだろう。
 もっとも政府がそれを禁止しているのは単に危険だからではなく、中には民間に回収されたくないものも沢山混じっているからだ。だが、世界政府がそれを回収することに必死になることもなく、こうして回収を先送りにしていた結果がデブリ帯であることは間違いない。
 俺は宇宙という暗闇の中で、星の光に混じってその遥か手前でキラキラと輝いている粒の帯を横目に見ながら、その宙域を飛行していた。
 アヴリルが言った。
「デブリ帯の中に昨日破壊したターゲットを発見」
 俺は全天周モニターに映ったそれを拡大した。細かく砕かれた破片はもっと大きく広がっていた。あれが完全にデブリ帯に紛れ込むのも時間の問題だろう。
 ちょっと惜しいな。あれだけあれば結構な金になるのに。そんなことを思った瞬間、何かの光が不自然に俺の視界の中を横切った。デブリ帯の手前辺りを、である。
 突然、アヴリルが言った。
「警告、八時の方向より急速に接近する物体あり。加速度、熱量等からモビル・スーツと推測されます」
 モビル・スーツ? だが、リング・レーダーに表示されたそれは、俺が知っている限りのモビル・スーツとはまるで違う加速度を持っていた。
 何だ? こんな速度で飛ぶモビル・スーツがあるのか? それに凄いエネルギー量だ。グワヒールとはケタ違いだ。
「アヴリル、奴の情報は?」
「スキャニング中です」
 俺は機体を傾けて、接近して来るモビル・スーツに正面を向けた。前方に移動する光点が見える。
 その光点から一瞬、何かの光が閃いた。俺は咄嗟にグワヒールのアポジモーターを噴かして、機体を四五度傾けた。
 強烈なビーム光がグワヒールの脇を駆け抜ける。俺は自分の顔の横に、物凄い熱を感じたような気がした。もちろん、気のせいであるが横切ったビームはそれほど強力なものだった。俺には直ぐに判った。それは間違いなくモビル・スーツが放ったビーム・ライフルの光だ。
「おい、何か起こっているのか? こちらでも接近する不明機を確認した。敵か? 火星連合か?」
 ロダンからの通信が入る。遠くで、お兄ちゃん! と叫ぶルーシーの声が聞こえた。向こうが騒然となっているのが判った。
「判らない。今、アヴリルが確認中だ。銃撃された。モビル・スーツのビーム・ライフルでな。だが、とんでもなく強力なやつだ。あんなの見た事がない」
 畜生! とロダンの怒鳴り声がした。
 その次の瞬間、通信はまた別なものに変わった。通信に割り込めるということは同じ世界政府軍の周波数を使っているということである。
「おい、そこのモビル・スーツ! 聞こえているか? この前は残念だったな。だが、トライアルはトライアル、手加減は無しだ。結果、例えこちらが圧勝だったとしても、貴様達はよく戦った。それは評価されて然るべきだ」
 男の声だった。サウンド・オンリーで男の姿は表示されない。だが俺はその声を聞いて妙な懐かしさを覚えた。
 しかし俺にビーム・ライフルを撃った奴である。そんな懐かしさは直ぐに振り払った。
「何が言いたいんだ?」
 一瞬、通信機の向こう側で男の言葉が詰まった。
「言いたいことはひとつだ。あのトライアル、残念ながら完全勝利とはいかなかった。しかし、それがA.I.だと? 一体、何のジョークだ? モビル・スーツは人間が動かすものだ。A.I.が動かすものじゃない。信頼性の高い戦術戦闘コンピュータ、だが、そんなものはどのモビル・スーツにだって搭載されている。それがたかだかA.I.風情で戦闘が左右されるというのか? 冗談じゃない。俺達が作ったモビル・スーツは完璧だ。全ての点においてな! それは証明された。しかし、そのジャッジには一つだけミスがあった。それを清算する。この場においてな!」
 こいつは間違いない。俺は声の主に思い当たった。そして身震いした。まさか、こいつが出てくるなんて。
「A.I.はそれほど捨てたもんじゃないぜ。パートナーとしてじゃなく、ただのコンピュータと割り切ったのがそっちの敗因だな。確かにあんた達のモビル・スーツは高性能かも知れないが、全ての面で完璧でありたいなら、完璧じゃない人間をサポートしてくれるA.I.にも気を配るべきだったな、グルーゼン・ビョルン!」
 俺は奴の名前を言った。奴は一瞬、沈黙した。
「貴様、リーヴか? フレッド・リーヴ!」
 そうだ、と奴に言ってやる。まさかこんな形で再会するとは。
「あんたは確かにスゴ腕でニュータイプ、普通のパイロットとは違って完璧だろうさ。でもな、モビル・スーツを動かすのはそれだけじゃない。A.I.を見くびっていると痛い目に合うぜ。昔のようにな」
「貴様に負けたのは、単なる偶然だ。データを見ても、俺が負ける要素は何もなかった。何もだ! だからこそ、偶然で二度も負けたことが俺にとっては唯一の恥辱、屈辱だ! イグドラシルも粋な計らいをしてくれた。モビル・スーツだけじゃなく、この俺の過去の清算もしろということか。判った、今ここでやってやる!」
 イグドラシル、俺はその名前を聞いて、全部を悟ったような気がした。ひょっとしてイグドラシルは最初からこのつもりだったのか? だから俺を選んだというのか? グルーゼン・ビョルンと戦わせるつもりで?
 いや、と俺は別のことを考えた。
 たかだかコンピュータのイグドラシルにそこまでの判断が出来るのか? いや、そんなことはないはずだ。ということはそれが出来る人間、俺が思い当たるのはたった一人、ジェノバ・ラウトゥーンだ。くそっ、あの女、俺とグルーゼンのことを知ってたし、ひょっとするとこのお膳立てをしたのはジェノバかも知れない。確かにあの女の依頼通りだな。実験用模擬機体を使って、か。見事にやられたぜ。
 奴の乗るモビル・スーツが俺の前に現れた。そして二百メートル程離れた状態で対峙する。
 俺はグルーゼンのモビル・スーツを素早く観察した。白を基調に胸は蒼、ところどころに黄色のワンポイントがある。顔にはグワヒールと違ってデュアル・カメラを持っていた。
「機体情報を確認しました。世界政府軍に仮登録されたモビル・スーツ、GT−エムズです。フォース・ドライバー、リ・ウイング・スラスタが搭載されています。バスターエッジを主武装にしており、他にビーム・サーベル、ビーム・シールドを搭載。更に機体の形状から何らかの改造が施されているものと想定され、後方に張り出したプロペラント・タンクはスラスタ位置との関係から何らかの別の装備であると推測されます」
 アヴリルが奴のモビル・スーツを説明した。全天周モニターに別のウインドゥが開き、俺はそこに表示された情報に目をやった。
 GT−エムズ、ガンダム・タイプ・アーリー・モデル・モビル・スーツ(Gundam Type Early Model Mobile Suit)の頭文字を繋げた名前だ。ガンダム? MSの識別コードか? ジェノバの言っていた世界政府軍が極秘で実行している計画の新型MS。
「おい、アヴリル、訳の判らない単語が多い。説明してくれ。そのフォース・ドライバーってなんだ? それに、他のも全部だ」
「フォース・ドライバーはメインとサブ三基の計四基の核融合炉によって高出力を機体に供給するシステムです。フォース・フレーム構造の機体によって構成され、サブを武器、その他に振り分けることよって高い出力を維持したままの戦闘行動が可能です。リ・ウイング・スラスタは翼状にバインダーを展開することによって空間中の姿勢制御を安定して行う機構です。現在はまだ開発中です。バスターエッジはフォース・ドライバーに連結したビーム・ライフル、ビーム・サーベルを組み合わせた武器です」
 俺は舌打ちした。厄介なものを山のように搭載してやがる。俺のグワヒールは量産品だぜ? まともにやり合えるとは思えない。
 それに、と俺は息を呑んだ。
 奴の背面から伸びた巨大なプロペラント・タンク。話に聞いたことがある。あれはドラッケン・マギの為の装備だ。あの中に奴が使うという竜術の秘密が隠されているはずだ。
「おい、どうしたんだ? リーヴ、答えてくれ!」
「お兄ちゃん! 何があったの? どうしたの!」
 ロダンとルーシーの叫び声が交互に飛び込んできた。
「ロダン、GT−エムズって聞いたことがあるか? 今やりあっているのがそいつだ」
「GT、エムズ、だって? ガンダムとかいうモビル・スーツのアーキ・タイプ、トライアルで戦った奴だ。そいつが来ているのか? くそっ、こっちのレーダーはジャミングされている。グワヒールのデータは入ってくるのに肝心のそっちのことが全然判らない!」
 俺は舌打ちした。
 GT−エムズがバスターエッジを構えた。その銃口が俺のグワヒールを狙っている。
 冗談じゃない。俺はグワヒールを加速させた。体が押しつけられる。俺の機体は真上に向かって上昇しながら、かつ全天周モニター上に表示された別ウインドゥで奴の機体を確認した。
 足元からビームの光が伸びた。それが俺の背中を掠める。俺は機体を旋回させるとデブリ帯を目指した。
 あそこなら奴もそうそう素早く動けないはずだ。
 もちろん俺は知っていた。グルーゼンが放ったビームは俺をそこに追い込む為のものだ。奴の機体ならもっと正確に俺を狙えるはずだからだ。
 まあいい。奴が何かを仕掛けて来るつもりかも知れないが、デブリ帯の中は俺の庭でもあるんだ。伊達にジャンク屋をやっているわけじゃない。条件はそんなに俺に不利じゃない。
 と、GT−エムズが背部に装備したバインダーを展開した。翼の様に見えるそれは高エネルギーの放出を意味する青白い光を発し始めた。
「高エネルギーを確認、GT−エムズ、加速中」
 アヴリルが言った瞬間、グルーゼンの機体は一気に俺を追い越した。
「何?」
 俺の前でほぼ仁王立ちのように立ちはだかったGT−エムズは、その右手に持っているバスターエッジを俺に向けた。刀身がやや広い短剣の柄が銃のグリップ状になっている武器、だがそこから発生した光の粒子がいきなりグワヒールの頬を掠めるように飛んだ。
 慌ててグワヒールをロールさせる。ビリビリとした衝撃が機体を震わせた。僅かに機体を掠めたビームだったが、それが機体全体を揺るがしていた。
「なんて奴だ!」
 俺はビーム・ライフルを構えさせ、奴の足元に回り込むと数発撃ち込んだ。
 GT−エムズがビーム・シールドを張ってそれを受け止める。ビームは完全にシールドで弾かれてしまった。しかし、その中に混ぜておいた別の一発が、シールドの丁度真上をすり抜けて奴の胸に直撃した。
「やった!」
 俺は叫んだ。
 昔、模擬戦なんかで俺がよく使っていたフェイク撃ちである。ビームを正確に発射しておいて、その中に一、二発、軌道を変えたものを混ぜておく。そいつは致命傷を与えることは出来ないが、それでも腕なり足なりの一本でも破壊してくれればしめたものである。
「何だと?」
 だが、俺は奴を見て驚愕した。
「はははっ! 貴様がよく使っていた姑息な手段も、このGT−エムズには効かないようだな!」
 奴は全くの無傷でそこにあった。直撃だったはずだ。それなのに少しのダメージすら与えられていない? そんな馬鹿な。
「GT−エムズの外装を構成する装甲はイクセリウム合金です。更に表面には対ビーム・コーティング用のレア・メタル塗料を使用」
「イクセリウム合金だって? あんなジャンク屋泣かせの超硬合金、モビル・スーツに使うなんて聞いたことないぞ!」
「事実です」
 冷酷にアヴリルが言い放つ。それにしたって、ビーム・ライフルの直撃で無傷なんてことは。
 と、俺は思い出した。そう言えばこのグワヒールのビーム・ライフルは低出力仕様なのである。
 くそっ、何処までも俺に不利になってやがる!
「どうした、今何をやっているんだ? おい、リーヴ!」
「取り込み中だ、ちょっと黙っててくれ!」
 俺は通信機の向こうで叫んでいるロダンに向かって言った。横ではルーシーが悲鳴を上げている。
「こんなこと言いたくないが、グワヒールじゃあ、どうやったってGT−エムズに勝てっこない。さっさと逃げろ!」
 言われなくても! 俺はフットペダルを踏み込んで、機体をそのまま加速し、奴の足元をすり抜けてデブリ帯に向かった。
 奴との性能差は歴然としている。このまま逃げきれるとは思えないが、少なくともデブリ帯に入ってしまえば。
 しかし、奴の広げた翼が俺の頭上を駆け抜けて、次の瞬間にはグワヒールの左肩をバスターエッジのビームが掠め、装甲を砕いた。
「くっ!」
 機体がガクンと揺れる。砕けた装甲はそのままデブリに変わった。次の攻撃が放たれる瞬間、俺はグワヒールを奴に向け、ビーム・シールドで機体を覆った。
 GT−エムズがバスターエッジを放つ。
 俺は奴の武器を少し見くびっていた。シールドで防げると思っていたそのエネルギーの塊はシールドに衝突すると激しく反応して輝き、それだけでなくシールドそのものを突き抜けた。俺は咄嗟に機体を避けさせていたからビームの直撃は受けずに済んだ。
 だが、ビーム・シールドの基部がスパークを放ち、機能を停止させた。
「はははっ! おい、リーヴ! どうした? 前のようにまぐれでもいいから俺に勝ってみせろよ!」
 グルーゼンが俺に嘲りの言葉を吐く。だが、俺はそんなことは気にしなかった。それどころじゃない、俺にはもう余裕はなかった。
 くそっ、と俺は機体を左右に振りながら最大加速まで持っていった。胃が押しつけられて戻しそうになる。目の焦点がほやけ、視界の周囲が暗くなってきた。血液が重力加速度によって偏っているのである。息も出来なくなってきた。
 奴の機体は俺の動きをそのまま追っていた。楽しんでいるのか? 冗談じゃない!
「さあ、どうしたんだ? 必死じゃないか。もっと楽しませてくれよ。このGT−エムズを一度は破ったA.I.の力と言う奴で俺に反撃してみろ!」
 グルーゼンがほざく。だがそれに言い返してやるほどの余裕すら俺には無くなっていた。
 バスターエッジの攻撃が二度、三度とグワヒールを掠めた。ご丁寧に装甲の表面だけを大きく削るように撃ち込まれている。
「リーヴ、しっかりしろ! お前なら出来る!」
「お兄ちゃん、頑張って! モビル・スーツなんて昨日の破片みたいにバラバラにしちゃえばいいじゃない!」
 えーい、ちょっと静かにしてくれ! 俺はルーシー達に怒鳴った。何が出来るっていうんだ? 何を頑張れって? 逃げるのに必死なんだ。こっちがバラバラにされる確率のほうが絶望的に高い。
 目の前にデブリ帯が近付いてきた。何かの破片だけではなく、その中には俺が昨日破壊したのと同程度の巨大なデブリもあった。あの中に入ってそれらを盾にすれば、まだ俺にも逃げるチャンスはある。
 しかし、ようやくデブリ帯に入ろうかという直前、奴の放ったバスターエッジの一撃が、グワヒールの左肩付け根を射抜いた。
 ドンという音がコクピット全体に響き渡る。リング・レーダーの画像が乱れ、コントローラに電流が走って俺は咄嗟にそれから手を離した。
 その瞬間、ぶつりとコクピットの中から明かりという明かりが消えた。シートに備えつけられたコンソール・パネルの幾つかのボタンのライトのみが赤と緑の僅かな光を放っている。
「おい、何だよ、これ? どうしたんだ? アヴリル! おい、アヴリル! 返事をしろ!」
 しかし、コクピットは暗闇に閉ざされたまま、何も返事を返すものは無かった。
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