第八話 「決断」 「今まで、ありがとう。モロキ。また会えたらいいな。」 「また、会うさ。かならずな。」 モロキの頭の中は、15年前のセイルと別れた時に交わした言葉が回っていた。 モロキの発言はライグランズのブリッジにも聞こえていた。 「セイル・ギアって確か・・あの、最新の歴史資本で読んだ、あの人物・・・?」 「歴戦の勇者の1人が、どうしてフェダールに!?」 慌てるクルー達。それをよそにフォーランは声を上げなかった。 (ついに現れたか・・・セイル・ギア。) モロキは再び、メインディスプレイを見る。 「久しぶりだな。」 セイルが言う。 セイルの冷静な声がモロキの脳裏を走る。 「・・・お前、何故フェダールに居る?」 「・・・」 モロキの問いに黙り続けるセイル。 「答えろ!!セイル!!」 モロキの口調に段々と焦りと怒りが出てくる。 「お前なら・・・気づいていると思うが?モロキ?」 「何だと?」 セイルもバイザーを上げる。 「現在の議会軍の悪質なやり方にな。」 セイルは喋り続ける。 「まぁ、議会軍の悪質なやり方は今に始まったわけではないが。モロキ、知りたくはないか?議会軍の本性と・・・」 セイルの口が止まる。 「・・・・・そして、チャリンズセツルメントの崩壊の真実を。」 再び口を開き、今度は言いにくそうに言うセイル。 モロキは眉を細める。 「チャリンズセツルメントの崩壊の真実?あれは、お前たちフェダールが起こしたテロではないのか!?」 「違うな。」 セイルはモロキの問いに即答する。 モロキはチャリンズセツルメントを崩壊させたのはフェダールだと聞いている。 事実、議会軍とセツルメント統合軍の兵は皆、チャリンズセツルメントを崩壊させたのはフェダールだと信じきっているのだ。 「議会軍に反発の行為として、チャリンズセツルメントを崩壊させた。違うのか!?」 「だから、違うと言っている!」 またも即答するセイル。 「お前は疑問を感じないか?何故、フェダールに集う者が増えてきているのかを。」 それは、モロキが一番気になっている事だ。 現在は議会軍、セツルメント統合軍も意気投合し、議会軍の復旧作業の為に政治的にも前向きな議会軍で、表顔では、戦争の被害地の普及などにも力を注ぎ、市民からの支持も好調であった。 しかし、極秘裏では議会軍の良からぬ噂が流れていた。 新兵器の開発・軍内部の増長である。 「今に戦争を起こしてどうする?」 モロキが訊く。 「我らの目的は、議会軍、及び議会軍に協力する組織、政府の全ての壊滅させることだ。」 「なら!俺たちが以前、戦ってきた意味が無いじゃないか!?シグマの地球汚染を、なんとか食い止めた。それで犠牲になった人間が悔やまれないぞ!!」 モロキが叫ぶ。 「確かにそのとうりだ。・・・では訊こう、モロキ。お前は何故議会軍に所属している?」 「臭い話だが、地球を、そして人々を守るためだ。」 セイルの問いに即答するモロキ。 「軍に所属する者は上からの命令は絶対条件だ。それが上層部に裏切られても、貴様はそれを言えるか?」 モロキの心中を打つようなセイルの問いにモロキは黙り込んでしまう。 「真実を聞きたいのならば、俺について来い。・・・嫌なら、俺を敵と見なし、撃て。その時は、俺も本気でお前を殺す。」 セイルは機体の動きを止める。 モロキはまだ心に迷いがあるのか、ライフルを構える。 モロキもセイルとは戦いたくは無い。 それに、チャリンズセツルメントの崩壊の真実。議会軍の上層部の思惑。 議会軍に所属し、特務部隊ディスターブ隊のMS隊長となっても、モロキの知っている情報には矛盾が多い。 真実を確かめたい。 それがモロキの答えだ。 だが、モロキは仲間達を裏切れない事で悩んでいた。 部隊が編入してから間もない部隊のMS隊長に任命された自分について来た仲間達をとてもじゃないが、裏切れない。 モロキの心情は揺れていた。 「隊長!何をしているんですか!?」 シャドウが叫ぶ。 ディストレスがセイルとモロキの会話に割り込んできた。 ディストレスはビームブレイカーでセイルの乗るMSに斬りかかる。 セイルは後退し、サーベルを抜く。 そして、ディストレスに接近する。 「待て!セイル・ギア!!」 セイルがディストレスに斬りかかろうとした時だ、フォーランの通信だ。 セイルは攻撃を止める。 セイルのコックピット内のサブディスプレイにフォーランが映し出される。 「・・・貴様・・・フォーラン・アーズ!!」 セイルはフォーランを見るやいなや眉間にシワをよせ、怒りをさらけ出す。 「まさか、お前がその艦の艦長とはな・・・。貴様に言う事は山ほどある。が、今は貴様を相手にしている暇は無い。」 モロキにはセイルとフォーランに何があったのかは知らない。 だが、過去に良からぬ事が2人の間であったのだろうと言う事は確信が持てた。 「・・・モロキ、答えを聞こう。」 セイルが眉を細める。 「俺は・・・俺の答えは。」 モロキの答えを息を呑み見守るカナン。 モロキはサブディスプレイに映し出されているカナンを見つめる。 しばらく見つめるとカナンは微笑みながら首を小さく縦に振った。 カナンはモロキの心情を悟った上で首を縦に振ったのだ。 つまり、モロキの行く道に決して反感は持たないと言う意味なのだ。 「・・・お前について行く。セイル。」 その答えを聞いたセイルは微笑み、モロキの乗るスパイルに近づく。 一方、ブリッジでも、モロキの答えにカナンを除いて、唖然としている兵がほとんどだ。 その中でも、フォーランは人一倍怒り狂っていた。 「ちっ!所詮は臆病者か!!これより、モロキ・グレンは敵と認識!全砲門!モロキ・グレンを撃ち殺せ!!」 これに従う兵は居なかった。 いきなりそんな事を言われても、対応が仕切れない。 「この・・・裏切り者!!!」 シャドウが再び、スロットルを前に倒し、セイルとモロキに迫る。 モロキはディストレスをよく見ると、いたる所が負傷していた。 おそらく、先程の戦闘で激戦を強いられたのだろう。 「シャドウ!やめろ!!」 モロキの声などシャドウには聞こえていない。 「こいつ!!」 セイルはライフルを腰に付けると、再びサーベルを抜く。 「そのMSを破壊してはいかん!!セイル・ギア!そのパイロットは・・・貴様の息子なんだぞ!!」 フォーランの発言にセイルを含んだ、それを聞いていたモロキ、ディスターブ隊の各員が凍りついた。 「僕の・・・父親?」 シャドウは動揺を隠せないでいた。 「馬鹿を言うな!!俺の息子・・・ブレイヴ・ギアは死んだ!!貴様ら、議会軍に殺された!!」 セイルは相手の隙を見ると、ディストレスの頭部をサーベルで突き刺し、破壊する。 「俺の・・・息子な訳が無い・・・そんな事は・・・。」 セイルは呟きながら、後退する。 それに近づくスパイル。 モロキは何も言えなかった。 「・・・モロキ、撤退するぞ。ついて来い。」 セイルは重い口調で言う。 「あぁ。」 モロキは答える。 「待て!隊長!!裏切るのか!?」 シャドウは頭から血を流しながら目を見開き叫ぶ。 頭部を破壊された時の衝撃で後部シートに頭を強打してしまったのだ。 「俺は、真実を知りたい。また会うのは、戦場でだな。」 モロキはそう言ってシャドウを突き放した。 「その決断が、間違っていることを証明させてやる!!」 シャドウは狂ったように、声が枯れるほど叫んだ。 その後、フェダールの艦隊は撤退した。 その結果、月基地は壊滅し、宇宙の議会軍とセツルメント統合軍の指揮系統は大幅に崩れてしまい、生き残った議会軍艦隊とセツルメント統合軍の艦隊は議会軍が保有する小惑星エンデバルに撤退を余儀なくされた。 |
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