第九話 「影の名前」


惑星エンデバルに撤退を余儀なくされた議会軍とセツルメント統合軍の艦隊は、月基地の防衛線に力を注ぎすぎてしまった為、宇宙の戦力の大半を失ってしまう。

〜惑星エンデバル〜
惑星エンデバルは宇宙にある、ほとんどの小惑星を合体・結集させできた議会軍の宇宙最強の拠点である。
そこで議会軍は最後の防衛拠点として活動を開始しようとしていた。
港には、月基地から撤退を余儀なくされた艦隊が集結している。
そこにライグランズの姿があった。
ライグランズのブリッジでは、皆座ったまま呆然としている。
激戦の後・・・と言うよりは、悲しみに浸っているのがほとんどだ。
それも当然だ。目の前で、MS部隊の隊長であり、歴戦の勇者の1人、そして絶大な信頼を寄せていた、モロキ・グレンが裏切ってしまったからである。
だが、そこにはフォーランのみ姿が無かった。

〜MS格納庫〜
ライグランズのMS格納庫には、大破してしまったディストレスの無残な姿が横になっている。
シャドウも治療を無事終えベットで熟睡している。

フォーランが廊下を流れている。
そして、ドアの前に立っているボディーガードに敬礼し、ドアの前に立つ。
「入れ。」
低い声が聞こえた。
それと同時にドアが開く。
フォーランが目を前にやると、薄暗い部屋の中、1人の男が立っている。
その男は後ろを振り返る。
「フォーラン、待っていたぞ。」


5時間後
シャドウは目を開く。目を右に滑らせると、誰も居ない。シャドウは体を起き上がらせるが、体全土に激痛が走り、苦痛の顔を浮かべる。
突然、ドアが開いた。
「シャドウ!まだ、寝てなきゃ・・・。」
レイルだった。レイルはシャドウの体を持ち支えると、そっとシャドウの体を倒した。
「レイル・・・。」
シャドウは呟く。

「そう・・・、月基地は落ちたのか・・・。」
「あなた、ディストレスのコックピットで気を失っていたの。」
シャドウは黙り込んでしまう。
シャドウが目を横に滑らせると、レイルは右手で大事そうに握っている物が見えた。
「それは・・・?」
シャドウはそれが気になり、思わず訊いてしまった。
「あぁ、これ?両親の・・・形見なんだ。」
シャドウは呆然としている意識の中で、訊いてはいけないことを訊いてしまった、と想い、目線を下にずらす。
レイルが持っていたものは、小さな石をネックレスにしたものだ。
「・・・そういえば、シャドウ。あなた、あのセイル・ギアの息子って・・・、フォーラン艦長が。」
レイルが言いにくそうに言う。
シャドウは以前の戦いの記憶が段々甦って来る。
シャドウの体が震えている。
「分からない・・・分からないんだ!僕は・・・僕は、昔の記憶が無いから!!」

「確か報告によれば、貴様・・セイル・ギアに言ったそうだな。シャドウの件を。」
「はっ・・、すみませんでした。あのままでは、シャドウが撃墜されてしまうのではと思いまして・・・。」
1人の男が椅子に座りながらフォーランと話をしている。
「言い訳はいい。今すぐ、シャドウの調整を見直せ。彼には、まだ生きてくれないとな。我らの計画が全て台無しになる。」
その男は立ち上がる。
「しかし、今シャドウもようやく、意識が戻った状態でして・・」
「黙れ!!」
男の怒声が沈黙していた部屋中に響く。
フォーランは誤りながら頭を下げる。
「貴様は、私の言うとおりにしていれば良いのだ!シャドウの記憶が、セイル・ギアとの接触で蘇る危険性もある。調整と同時に記憶のコントロールも忘れるな。」


「記憶がないって・・・!貴方、一体!?」
レイルが椅子から立ち上がる。
「分からないんだ・・・、気づいたら、多くの研究者に囲まれていて・・・辛くて・・悲しくて・・僕は・・・・誰なんだ。本当は、僕は・・・誰?」
シャドウが頭を抱えながら泣き叫ぶ。
「シャドウ・ネィム・・・。」
レイルはシャドウのフルネームを呟き、訳してみた。

シャドウ   SHADOW。影。
ネィム    NAME。名前。

「影の名前・・・。」
レイルは泣き苦しむシャドウを呆然と見ているしかなかった。
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