最終話 「悲しみと欲望と」


〜5日後〜

「う・・・うぁぁぁ!」
シャドウが苦しそうに叫ぶ。
頭には何かの装置が取り付けられ、椅子に体が固定されている。
ガラス越しにフォーランと何人かの研究員が居る。
シャドウが座っている椅子の後ろにはモニターがあった。
そこには、何かの映像が流れている。
「フォーランさん、やはりシャドウの記憶の電波が乱れています。」
研究員の1人が画面を見ながらフォーランに言う。
「そうか。今後のセイル・ギアとの接触も予想される。強化をより強めておけ。」
その部屋を出るフォーラン。

〜10分後〜
フォーランが部屋に入る。
「お呼びでしょうか?」
そこには、以前フォーランに怒声を上げた謎の男が居た。
「あぁ、あれを見ろ。」
フォーランが男の横に立つ。
窓越しに見えるのはMS格納庫のようだ。
「・・あれはっ!?」
「大破したディストレスのパーツとネオ・ステルスエンジンを搭載した、新型のMS・・・ディストラクションだ。」
ディストレスのパーツを使った為か、またも全体的に暗い印象を与えるMSだ。バックパックには、大型のプロペラトタンクのようなものがあるのが分かる。
フォーランが目線を左に向け、男の方に向く。
「あれにシャドウを?」
「そうだ。それと、フェダールの本拠地が近々判明するやもしれん・・・。」
男は椅子に座り、大型ディスプレイに映像を流す。
「太陽と月の中間・・・セツルメント統合軍、軍事工場がある場所だ。」
男は画面を操作し、そのポイントを丸で囲む。
「セツルメント統合軍が・・フェダールを庇っていると?」
フォーランは画面を見ながら訊く。
「いや、庇っているのはおそらく、この軍事工場だ。」
「なるほど。しかし、よくお分かりになりましたね?」
「報告書を見れば、検討は付く。だが、気づくのに半年を費やしたがな。」
男が再び立ち上がる。
フォーランが歩み寄る。
「それほど、見破るのが困難だったと。」
「あぁ、巧みに出来た報告書だったよ。」
「では、直ぐにでもその場所に艦隊を向かわせませんと。」
フォーランが部屋を出ようとした瞬間、男が立ち上がった。
「いや、地球に居る全艦隊を宇宙へと上げ、議会軍とセツルメント統合軍の全戦力をかけて、1ヵ月後に攻撃を仕掛ける。」

〜ライグランズ ブリーフィングルーム〜
「全戦力ですか!?」
それを聞いたカナンが反発する。
「そうだ。それが上からの作戦だ。」
「上からとは、議会軍の上層部ではありませんね!?一体、何処から・・・」
カナンとフォーランの口論はブリーフィングルーム内に響いただけではなく、他の隊員を黙らせてしまった。
「カナン少尉、君がそこまで問い詰めるのはどうしてだね?」
「それは・・・敵に対してそこまでの戦力で挑むのですかと、言う事です!」
「これ以上、戦いを長引かせる訳にはいかんのだよ。君もこれ以上、戦いたくはないだろう?」
「しかし、その作戦が失敗した場合は!?」
カナンが訊く。
「失敗はない!全戦力で挑むのだ、失敗などありえんよ。」
カナンと問いに即答するフォーラン。
ブリーフィングが終了する。
隊員が部屋を出て行く中、カナンは1人、ブリッジへと向かう通路とは逆に向かって行った。

カナンはドアの前に立つ。カードキーで鍵を開け、ドアが開く。
右手でライトを点ける。
そこはモロキの部屋だ。
モロキの部屋に入るや否や、力が抜けたようにその場に座るカナン。
「モロキ大佐・・・・。このままじゃ・・大佐が死んじゃう・・・。」
手で自分の涙を拭き取るが、涙が止まらない。

〜MS格納庫〜
レイルが自分専用のフォートムのシステムをチェックしていた。
レイルの指が止まる。
「・・・このままでは、モロキ大佐が危ない・・・けど、私達の敵はフェダール・・・私、どうすれば良いんだろう。」
レイルが呟いていると、コックピットに近づいてくる男が居た。
「キャッ!」
入ってきたのは、シャドウだった。それに驚いたのか、レイルは悲鳴を上げる。
「どうしたの!?」
「そ・・その・・・」
レイルの問いにシャドウが口ごもる。
シャドウは右手を差し出す。
その手には、レイルの形見、小さな石をネックレスにしたものがあった。
えっ!?という声をあげると、レイルは慌てて、ポケットに手を入れる。
ない。シャドウが持っているのは本物のようだ。
「あ・・ありがとう。どうして?」
レイルはどうしてシャドウが持っていたのかを訊く。
「あぁ、医務室に落ちていたんだ。」
「そ・・・そう。本当にありがとう・・・。」
レイルは大事そうに握り締めた後、首元にかける。
そんな仕草についつい見とれてしまうシャドウ。
「まだ何か?」
「い・・いや、別に。」
シャドウの頬が赤くなる。
そそくさと、フォートムから降りるシャドウ。
「さて・・・俺も、システムチェックするかな。・・・ディストラクションって言ったっけ?」
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