第三話 「Project MOVE」


─ライグランズ
ここは、レイルの自室。そこにはソファーに座っているカナンとレイルの姿がある。
「─その話……本当ですか?!」
レイルが驚いている。
「……そうよ。紛れも無い事実…。」
カナンはレイルに事の真実を話した。5年前の事件の真実、フェダールを必要以上に壊滅させたい理由、セイル・ギア、ランド・セブがフェダールに参加している事。
「でも……!どうしてカナンさんがそんな事々を知っているんです!?」
確かにそうだ。カナンもレイル同様の議会軍兵士。モロキならまだしもオペレーターのカナンが知っているのは疑問だ。
「……」
カナンは黙り込んでしまう。
「レイルさん!…私は、あなたの言う真実は分かりました。……でも、あなたがそこまで知っている理由を聞かせてください!」
するとカナンが重い口を開いた。
「私は……カナン・ツムギではない……カナン・リグだから。」
「─!!…それって、あのフェダールのルフェス・リグと同じファミリーネーム…。もしかして、あなたは─!」
「─そして…!!」
カナンの声にレイルは言おうとした事をやめた。まだカナンの話が続いていたからだ。
「…私は、ルフェスの妹……だから。」
その場に沈黙が流れる。すると、レイルが口を開く。
「どうして……そんな事を私に?」
「…レイルさんなら信じられる、世界の真実を知って欲しかったから。……でも、この事は内密に。お願い。」
レイルは首を縦に振る。

─小惑星ライグランズ宙域
ライグランズが少し離れた宙域に1つのシャトルと1つのMSの姿があった。
「─よし、準備は良いな?これから、全武装のテストをした後、ネオ・ステルスエンジンのテストを行なう。まずはランダムに行動・攻撃してくる人工知能搭載のフォートムを全武装を用いて撃破しろ!尚、敵機の持っている武器は全て実弾だ!当たれば……分かってるな?シャドウ?」
シャトルのコックピットルームから命令を出していたのはフォーランだった。その背後には研究員数名の姿がある。
「……はい。」
シャドウは小さい声で返事をする。
「テスト開始。」
フォーランは赤いボタンを押す。
すると、近くの隕石に身を潜めていた人工知能を搭載したMSが出現した。数は10機だ。
「……!!」
シャドウを目を見開き、スロットルレバーを倒す。
フォートムからの攻撃が始まった。そのビームを次々と回避していくシャドウ。まずはビームライフルを連射し、1機破壊する。
そしてライフルを腰部に収納し、接近しつつ、足のサーベルトラックから射出されたビームサーベルを右手に取り、1機を切り裂いた。
直ぐに後方から接近してきたフォートムがサーベルを振りかざす。それをスラスターを吹かし回避した後、両肩のメガビーム・キャノンを発射しフォートムを破壊する。
すると、前方からビームランチャーを乱射してくるフォートムが4機。シャドウはバックパックに備えられた、4つの銃口を持つフォースビームキャノンをスタンバイし、大出力のビームを発射した。それによりフォートムを回避をする間も無く4機とも爆破した。
残るフォートムは3機。
内1機が猛スピードで接近して来た。シャドウはサーベルを収納し、ライフルを再び構え連射する。フォートムは全弾回避する。その直後、シャドウは機体の左腕を振りかざした。すると円状のエネルギー波が射出された。これは円状のエネルギー波を射出する光波ブレード…つまりチャクラムの無線式と考えてもらって良い。左腕にはそのエネルギー波を射出するエネルギーリングが装着されている。
そのエネルギー波を喰らったフォートムは真っ二つになり爆散した。残り2機。
フォートム1機がビームランチャーとライフルを同時に撃ってきた為、シャドウはビームシールドを展開し、シールドで弾き飛ばした後、ライフルを発射しフォートムを打ち抜く。その隙を狙い、最後のフォートムが新装備のミサイルポッドを構え、ミサイルを一斉発射した。それを頭部のバルカンと胸部のマシンキャノンで一掃しながらネオビームブレイカーを取り出しビームの刃を出した後フォートムを一刀両断した。
これで全機破壊する事に成功した。
だがシャドウは10機破壊しても息切れ一つも出さず、只モニター越しに見える宇宙空間を見つめていた。
「─よし、次は新型ステルスのテストだ。」
フォーランの声に気づき再びコンソール画面に視線を戻すシャドウ。
「このネオステルスエンジンの特徴は従来のエンジンよりも数倍の時間ステルス状態が可能と言う事と、プロペラントタンクによるステルスの連続使用が可能になった事だ。これでフェダールのガンダムに引けはとらない。早速、ステルスを機動してみろ。」
フォーランが説明を終えた。
「……了解」

─2時間後
フォーランはシャドウの機体テストが終了後、再びエンデバルの第19格納庫に入った。
そこには例の大型のMAの姿がある。
どうやら完成している用で、作業員の姿が見当たらない。
フォーランは床を蹴り、頭部にあるコックピットのハッチを開け、中に入りシートに座る。
コンソールのキーボードを打ちながらMAの電源を入れていく。
するとコンソールに文字が出現した。

─Project MOVE─

「フフフ……」
フォーランは不敵な笑みを浮かべながら各部のチェックを行なっていた。

─6日後
遂に議会軍の全戦力によるフェダール殲滅作戦が決行される日が来た。
既に地球から上がってきた艦隊はポイントA741に集合し、宇宙艦隊を含めた小惑星エンデバルも核パルスエンジンによりA741に配備された。
各艦隊が所定の位置に着いている中、ライグランズもエンデバルから少し離れた場所に配置された。

─ライグランズ ブリッジ
ブリッジにはフォーランだけ姿が無かった。
それを疑問に思うブリッジクルー達。沈黙だけが漂っていた。だが、その沈黙を掻き消すかのようにブリッジに通信が入ってきた。フォーランが居ない中、回線を開くのは軍規に反するがブリッジクルー宛ての用なのでカナンは回線を開くことにした。
するとモニターに映ったのは議会軍宇宙艦隊総司令のドルバック大将だった。
直ぐに敬礼をするクルー達。
「ご苦労。既に分かっていると思うが、フォーラン艦長は不在だな?」
「はい。」
カナンが答えた。
「うむ。実は彼には特別任務を与えているのだ。」
その言葉にクルー達は内心驚いていた。
(特別任務?今更何を?)
カナンだけは疑問を感じていた。
「そこで、この作戦に限って、ライグランズの艦長代理をカナン・ツムギ少尉を任命する。」
「わ…私が…ですか?」
「そうだ。」
元々、過去のブレイジング隊でもそうだったが、ディスターブ隊には副長と言う物が存在しない。
そこで艦長代理と言うのは特務隊では珍しい事であった。
「他の艦隊から副長の誰かを呼び出す事はできないのですか?」
「君がオペレーターであると同時に、この艦の事は大体把握しているはず。君が一番適任だと思う。本来ならば、君が言うように別部隊から派遣するのが妥当なのだが、何分人員不足と作戦前と言う事もあってな。只、オペレーターは別部隊から派遣する。」
「……分かりました。」
カナンは反論は出来なかった。
「頼む。そこで君を少尉から少佐に3階級昇進させる。後のことは今後の司令通りにしてくれたまえ。」
そこで通信は終わった。
直ぐさまカナンは艦長席に座る。
「皆、宜しくね。」
カナンが言うと、クルー達は首を縦に振った。
するとカナンは艦内放送を始めた。
「ディスターブ隊各員はこれよりブリーフィングルームに集合して下さい。繰り返します…」

─レイル自室
「…!ブリーフィングに集合!?…ついに始まる…」
そう呟きレイルは急いで自室を後にする。

─ブリーフィングルーム
その後、ブリーフィングルームに集まった隊員達。シャドウは部屋の片隅に腕を組んで立っている。すると、カナン等ブリッジクルー達が入ってきた。
そして、カナンが口を開く。
「よし、集まっていますね。それではブリーフィングを始めます。」
その直後、隊員の1人が問いかけた。
「カナン少尉!フォーラン艦長がまだですが……?」
「あぁ…、皆さんにはまだでしたね。フォーラン艦長は別の任務に付くため、この作戦のディスターブ隊の全指揮、及びライグランズの艦長は私、カナン・ツムギ少佐が行ないます。では、時間もそうないので始めます。」
ざわめき始める隊員達。
するとモニターに映像が映し出された。現在の議会軍の位置とフェダールの位置、MSの展開位置などがカナンから告げられた。
「──尚、MS部隊の隊長はロアップ・ラック大尉。副隊長はデル・イースタ中尉を任命します。それでは、これでブリーフィングを終了します。後は作戦開始時間まで隊員は持ち場にて待機していてください。解散。

続々とブリーフィングルームを後にする隊員達。レイルはカナン自分の部屋でカナンと話したことを思い返していた。

「どうして、カナンさんは議会軍に?ルフェス・リグと共にフェダールに居れば…」
「私はあえて、兄とは違う道を選んだ。兄とは別のやり方で戦うことを選んだの。それに議会軍の内部を知るためには議会軍に所属した方が簡単だったのよ。そして、出来ることなら内部から変えようと思った。…でも、さすがにそれは私1人では無理だった…。そして、戦争が始まった。私はフェダールと戦うことを余儀無くされた…。それに兄は私が議会軍に所属している事はしらないわ。」
「…そうですか。…カナンさんはさっき私に、信じられる・真実を知って欲しかったと言っていましたが、それで私は何をしたら良いのでしょうか?真実を知ってしまった私は!?……何を」
「あなたも良く考えてほしいの。このまま議会軍の思惑どおりになってしまう世界で良いのか?悪いのかを。おそらく次の作戦で勝敗が決まるわ。議会軍とフェダール…どちらも正しいとは言えないけれど、あなたなりに考えてみて。」

レイルはパイロットスーツに着替え、MS格納庫の自分専用のフォートムの前に立つ。床を蹴り、コックピットに入りシートに座る。
「…思惑どおりの世界…か。」
レイルはコンソール画面のボタンを押す。

─ライグランズ ブリッジ
各艦隊が所定のポイントに配備されて数時間後、月に重なった大きな隕石…小惑星MB−FR、つまり敵の本拠地とも言えるべき物が現れた。その数分後にメガドライブエンジンを使用した敵艦隊が大量に現れた。議会軍の全戦力と見比べると明らかに数は少ない。
別部隊から派遣された男のオペレーターが口を開いた。
「艦長、月方面の光学映像出ます。」
「出してください。」
モニターに映された映像には、月に重なった小惑星MB−FRと敵艦隊の姿が映っていた。
前方の艦隊がエンジンを始動させ、前進して行く。
「あれはっ!?MB−FR!?あちらから仕掛けてきたと言うの!?」
驚いたのはカナンだけではない。他の議会軍兵士のほとんどがこの状況に息を呑んだ。議会軍側は自らMB−FRまで行こうとしていたからだ。それも明らかに戦力不足のフェダールから攻めて来るというのも訳せない。
またオペレーターが口を開いた。
「─艦長!エンデバルから指令です。各艦隊はそのままフェダールの艦隊を迎え撃て…とのことです!」
「分かりました。では…行きます。ディスターブ隊!ライグランズ全速前進!艦砲ポイント、C562に到着した後、10分後にMS部隊は発進!」
敵の艦隊も前進してくる。正面から戦うつもりだ。
(ルフェス兄さん…正面から戦うと言うの…?できれば、フェダールの艦は落としたくない…、でも!やるしかない!!こうなってしまっては!?……冷静さを失ったら駄目よ!カナン!!)
カナンは自分がパニックにならないように、自分に言い聞かせていた。

─MSデッキ
レイルは自分の首に掛けてある両親の形見の石を握る。
(ついに始まった……私は、世界の真実を見る!お父さん…お母さん…私を守って…!)
「レイル少尉!発進どうぞ!!」
レイルはヘルメットのバイザーを下げる。
「レイル・ヤムン!フォートム出ます!!」
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