第五話 「逆襲の刃」


地球衛星軌道上のポイントA741に展開していた議会軍艦隊に対し、その月までの直線状に位置する、ポイントD546にMB−FRを含んだフェダール艦隊が突如として現れ、遠距離砲撃によって議会軍艦隊の一部が壊滅してしまった。緊急迎撃体制をとる議会軍艦隊であったが、全艦隊を動かす程の大量の指揮系統は混乱してしまっていた。その隙を見逃さなかったフェダール艦隊は次々と議会軍側の戦艦を撃沈して行く。

それから数時間後、戦いは艦隊戦からMS戦へと移行していた。


─ディスターブ隊 旗艦ライグランズ
ディスターブ隊は配属されている第32ローライ艦隊のローライ・ガッチ司令官の命令で、ポイントA955からC103までの敵艦と敵MSの撃滅を言い渡されていた。

─ライグランズ ブリッジ
「敵艦から砲撃!…来ました!」
オペレーターが叫ぶ。
「回避して!MS部隊、随時発進してください!」
敵艦の砲撃を回避すると、MSが次々と発進して行く。
するとオペレーターが口を開いた。
「艦長。ローライ司令から通信です。回線開きます。」
モニターにローライ司令官の姿が映る。
「カナン艦長、ライグランズの主砲の発射を許可する。それで前方の敵艦隊を一掃してくれ。」
(し…主砲を!?)

ライグランズはバラスート級の8番艦である。バラスート級の戦艦は宇宙は勿論の事、大気圏内でも航空、戦闘を可能にした万能艦である。ライグランズは従来のバラスート級の形状は違えど性能、武装のほとんどがバラスートに類似している。
それは主砲も同じであった。かつてのコロニーレーザーと呼ばれた、コロニーを使用した大出力のレーザー砲は大艦隊を殲滅させるには十分過ぎる火力を持っていた。バラスート級の戦艦の主砲は、それを極力小型化されたものなのである。バラスート級の戦艦は、特務部隊に受領されるケースが多い。それは戦艦を1つだけに限定されているからであった。しかし何故、コロニーレーザー並みの主砲が必要なのかと言うと、例えば艦隊相手になった場合でも、MS部隊だけでは、撃滅出来ない可能性もある。その為、一撃で敵艦隊を殲滅させられる攻撃手段が必要とされた。その結果、かつてのコロニーレーザー並みの威力を兼ね備えた主砲が装備され続けている。バラスート級は、MSを30数機をその格納庫に詰められる程の大型の戦艦であるが、核パルスエンジンを搭載している為、機動性、旋回性にも優れている。それが長年に渡ってバラスート級が使用され続けている主な理由でもある。

カナンは自らの命令で、フェダールの艦隊を破壊する事に抵抗を感じていた。彼女はルフェスの妹だし、兄とは別の道を選んでも、その心境はフェダールに、どうしても向いてしまうのだった。
「……分かりました。主砲!発射準備!EN充電開始!MS部隊は、これより10分以内に射線上から退避!」
しかし、カナンはライグランズの艦長。軍人であるかぎり、命令には背けなかった。


その頃、黒い機体が出撃体制をとっていた。
大型のリアウイングに、プロペラントタンク、バックパックの大型ビームキャノン…シャドウの新しい機体ディストラクションだった。
「シャドウ・ネィム…ディストラクション!発進する!!」

その頃、フェダール艦隊は先手を打つことに成功はしたものの、やはり物量の差は歴然としてた。次々と撃沈していくウノとドス。
しかし、セイル、モロキ、ランド等の活躍により、被害は最小限に止まっていた。
「モロキ!左前方!敵MS部隊!」
セイルが叫ぶ。
「分かってる!」
するとモロキが何かに気づいた。
「あれは…!?フォートム!?ディスターブ隊が来やがった!!」
モロキは両肩のガトリングガンを連射するが、回避されてしまう。
「ちぃ!さすがエース部隊か!?」
モロキが舌打ちをすると、セイルのレボリューションがビームチャクラムを射出し、振り回した。それでフォートムを撃破する事ができた。
「やはり、かつての仲間は殺しにくいか?」
「次は、やるさ。何のために、フェダールに来たんだよ!俺は!」
モロキは機体を反転させ、近づいていたライフルで敵機を打ち抜いた。



「前方に…敵MS…。」
シャドウは前方に、エクスセイバーが5体と戦艦のウノを1隻発見した。
「落とす…!」
シャドウは急接近し、ライフルで敵機を打ち抜いた。それに気づいた他のエクスセイバーとウノからの集中砲火が始まった。
シャドウはそれら全てのビームを回避すると、スラスターを吹かし、敵機の周りに急接近するとネオビームブレイカーを取り出し、その長い刃を活かし、一振りでMS4機を一刀両断した。その後、ウノの対空レーザー砲がディストラクションを捉えるが、それをビームシールドでレーザーを次々と弾くと、回避しながらウノのブリッジ目掛けて、ネオビームブレイカーを突き出し、ウノはブリッジが焼かれ、爆破炎上し撃沈した。
それでもシャドウは表情を一切変えず、無言のまま再び敵MSを破壊していった。


かつてのコンビネーション攻撃が復活し、次々と議会軍の艦隊を殲滅して行く、セイルとモロキ。
「セイルさん!モロキさん!」
ランドのエボリューションが接近してきた、セイルとモロキのモニターにランドが映り出た。
「どうした?」
セイルが訊く。
「システムが反応しました。こちらに向かってます。憎悪、欲望、悲しみの…結晶が!」
「レーダーに反応!これは新型!?データにないぞ!!」
モロキが叫ぶとスラスターを吹かして加速して行く。それの後を追うように、セイルとランドが続く。

「前方に…MS…3体…!」
シャドウはバックパックのフォースビームキャノンを繰り出し、発射した。
それを回避する、モロキ達。
「やっと見つけた…!モロキ・グレン!セイル・ギア!」
「シャドウ!?」
「…!ブレイヴ!?」
セイルが一瞬たじろいた。
シャドウはライフルを連射する。それをセイルはビームシールドで弾く。
後方からランドが接近して、ライフルを連射する。がシャドウはそれを回避して、光波ブレード エネルギーリングを発射した。ランドは咄嗟にビームサーベルを抜き、それを弾き返した。
モロキがメガビームキャノンをシャドウ目掛けて発射するが、回避されてしまう。
「あんた達は、僕が倒す…!エースの僕が!!」
シャドウはネオビームブレイカーで、モロキのスパイルに切りかかる。が、モロキは咄嗟に避ける。

ちょうどその時、レイルのフォートムがモロキ達が戦っているポイントに近づいていた。
モニターに光学映像でアップに映し出された、モロキのスパイルとシャドウのディストラクション。
「…!スパイル…!モロキ大佐だ!!…それと、シャドウなの!?」
レイルはスロットルレバーを倒して、モロキのスパイルに近づく。
「赤いフォートム!?レイルか!?」
「モロキ大佐!!」
「邪魔だぁ!レイル!!」
「シャドウ!?」
シャドウはエネルギーリングをモロキ目掛けて発射した。だがその射線上にはレイルのフォートムが居た。
「…ッ!!」
レイルが目を瞑る。
それをモロキがビームシールドで防ぐ。
「……モロキ大佐!?」
「くそがッ!」
モロキは両脚のミサイルランチャーを発射した。それに続いて、セイルのレボリューションがビームサーベルを抜き接近する。
「セイル…!?」
モロキが声をあげる。
シャドウはミサイルを全弾回避すると、接近して来たセイルのサーベルをネオビームブレイカーで受け止める。
「ちッ!セイル・ギア…!!」
「本当に…ヴレイブなのか!?」
「オレは…!シャドウ・ネィムだ!!」
やはり、ネオビームブレイカーとビームサーベルのパワー差は歴然としていた。セイルはシャドウの猛攻を止めることはできなかった。
機体のパワー差から押されていくセイル。
「こうなれば…!一気に片付ける!」
シャドウはビームサーベルを抜き、大型のリアウイングを開いてネオステルスエンジンを始動させた。
「ステルス…!?」
セイルが声をあげる。
一瞬にして消えたディストラクションに対し、セイルは全ての神経を集中させた。
セイルは目を瞑る。
「見えた!」
セイルはライフルを左後方に向けて乱射すると、ディストラクションがビームシールドで防いでいた。
「くっ…!!」
シャドウは再び、ステルスでセイルに接近する。

ステルスによる移動は、大量のスラスター噴射がある為、その移動した痕跡が長時間残ってしまう。それが別名『光の帯』と呼ばれるものである。しかし、そのスピードは超音速で、スラスター移動の痕跡を発見できたとしても、次の瞬間には攻撃されている。
セイルは攻撃の前に一瞬だけその姿を確認できる、その一瞬に集中していた。ディストラクションのビームサーベルの攻撃を自らのビームサーベルで受け止める。
レイルからすれば、考えられない事だった。あの超音速のステルス攻撃にズバ抜けた神経で対応していたのだ。

その後方で、ランドのエボリューションがステルスを発動させていた。
「行くよ。システム。ステルスにはステルスで対応する…!」
『システムロック解除 ステルス発動』
1つの光の帯に、もう1つの光の帯が加わった。ランドのエボリューションだ。
「ランド!?あまり無理をするな!お前には、別任務が…!」
「分かっています。すぐに決着をつけます!」
ディストラクションの標的は、セイルからランドのエボリューションへと変わった。
「あの機体…!!ステルスで勝るのは僕の方だ!!」
強化より施されたシャドウでも、エボリューションの事は記憶が覚えていた。エボリューションに限ってシャドウは敗戦の連続なのである。
宇宙空間に広がる『光の帯』が2つ交差する。セイル達からすれば、何が起こっているのかはハッキリとは分からなかった。
何が起こっているのか?それを知っているのは互いに剣を混じ合わせるているランドとシャドウだけである。

ランドはシャドウのディストラクションに接近する。右手にはビームサーベルだけを持っていた。
(本当に、あのMSのパイロットがセイルさんの息子さんなら!殺すわけにはいかない…!!)
『EN残量82……81』
ランドにシステムの言葉が伝わる。
『ランド!ENが70を切れば、次の作戦に間に合わない。急いで!』
(分かってる!)
ランドはサーベルを振りかざす。
それをビームサーベルで受け止めるシャドウ。

何故シャドウがネオビームブレイカーを抜かないかと言うと、ステルスによる超高速移動よる攻撃でネオビームブレイカーだとその刃の長さから振り下ろしてから、敵機に当たる秒数が長くなってしまうからである。その為、敏速に攻撃と対応ができるサーベルを持っていると言う訳だ。

再び接近し、サーベルを両手に持ち接近するランド。
するとシャドウはフォースビームキャノンを発射した後、エネルギーリングをも発射した。ステルス状態の敵機を捕らえて発射する事は無理に等しいが、シャドウは強化訓練の際に、対ステルス戦を経験済みの為、ランドのエボリューションを捉えるのは簡単な事であった。
それはランドにして見ても同じである。

ランドはステルスで回避しながらもシャドウとの距離が開いてしまう。
「ちっ…!」
ランドはサーベルで頭部を破壊する事に拘っていたが、ツインビームキャノンとメガビームキャノンを同時発射した。
シャドウはこれに対しビームシールドでランドからの砲撃を防いでいく。
続いてランドがミサイルランチャーを発射する。ランドは頭部バルカンと胸部のマシンキャノンで打ち落としながら回避して行く。そして遂にシャドウがネオビームブレイカーを抜いた。
「これで終わらせる…!」
シャドウが呟くと、ステルスを利用してランドに急接近する。
だがランドもそのまま敵の攻撃を喰らうほど腕が悪い訳ではなかった。
ランドは機体を左に逸らし、ビームブレイカーを回避すると、回避した瞬間と同時に左手のビームチャクラムにENを供給、射出体制をとっていた。
「頭部を狙えば…!!」
ランドはビームチャクラムを至近距離でディストラクションの頭部目掛けて射出した。
「…ッ!?この!!」
シャドウは咄嗟の判断で機体を左に寄せた。その結果、頭部ではなく右肩にチャクラムが当たり、ディストラクションの右肩の装甲が外れてしまった。
するとシャドウはコンソールを見ると、プロペラントタンクのENが底を点く寸前であった。
「くっ…!」
シャドウは唇を噛む。
そしてシャドウはステルスを停止させ、2つのプロペラントタンクをパージし、ステルスのEN消費をメインスラスターに繋いだ。
そしてもう1度、リアウイングを開き、ステルスを再び発動しようとしていた。
「まだっ…!?」
ランドが声を上げる。
そう、ディストラクションのEN残量はまだ十分にあった。今までのENの消費はプロペラントタンクで賄っていた。
と言う事はディストラクションは、まだステルスを使用可能だと言う事だ。
それと同時にセイルとモロキがサーベルを抜き、構える。レイルは只、その戦いを見ているしかなかった。

モロキが見つけ、レイルが見つけられない、この世に対する答えも訊けずに…
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