第六話 「影」


─ライグランズ
「─艦長、主砲ENチャージ完了までの時間、残り7分です。」
「分かりました。」
オペレーターの発言にカナンが答える。
その時、ライグランズの隣に居た味方の戦艦が撃沈され、衝撃の余波がライグランズを襲った。
「くッ…!!」
衝撃がブリッジクルー達を襲う。しかも、その戦艦の破片がライグランズに衝突している。
「か…艦長!右舷、第1、第2格納庫の外壁が多数破損!それと、第2副砲と対空レーザー砲、6番〜12番が使用不能!」
「面舵!11時の方向に回避!使用可能なレーザー砲は、破片の排除を!」


一方、シャドウのディストラクションは、ステルスを再度使おうとしていた。
『ランド…ENが残り59。』
(もう…もたない!?くッ…!)
ランドは、自分のENが50を切らない為にも、先手必勝を心がけた。
(せめて!…ステルスを発動させる前に!)
ランドはシャドウに急接近すると、チャクラムを頭部めがけて射出する。
だが、シャドウはそれを回避する。
そして、ステルスが発動されようとした次の瞬間の事だった。
ディストラクションの大型のリアウイングとメインスラスターが何者かによるビーム砲によって破壊されたのだ。
「ぐぅッ…!なんだ!?」
シャドウが咄嗟に後ろを見ると、そこにあったのは、レボリューションのイーヴィル・ストライクだった。
「イーヴィル・ストライク!次は両脚バーニア!!」
セイルが叫ぶと、イーヴィル・ストライクはディストラクションの両脚に向かって移動する。
「セイル・ギアァァァァ!!」
シャドウは目を見開き、バーニアを使って回避すると、まだ使えるスラスターでセイルに迫る。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
シャドウが叫び、ネオビームブレイカーでセイルに斬りかかる。
だが、イーヴィル・ストライクの攻撃により、徐々にディストラクションにダメージが増えていく。
「ぅぐッ…!くそぉぉぉぉ!!」
「ブレイヴ!!お前が本当に、オレの息子のブレイヴ・ギアなら!思い出せ!!俺を!」
「だまれぇぇぇぇえええ!!」
尚もビームライフルを乱射するが、これもイーヴィル・ストライクで破壊されてしまう。既に、イーヴィル・ストライクによって、ディストラクションはフォースビームキャノン、光波ブレード、左腕、スラスター、右脚などが破壊されていた。手持ちの武器は、ネオビームブレイカーとビームサーベル、両肩のメガビーム・キャノンのみとなっていた。
セイルの攻撃にモロキが加わる。
「シャドウ!」
モロキはライフルを連射した後、接近する。
「モロキ……グレン!!」
シャドウはビームブレイカーを振り回しながら、モロキのスパイルを近づけさせまいとする。
「もう、止めろ!シャドウ!!どの道、お前に勝ち目は無い!」
「うるさい!この…裏切り者がぁ!!」
シャドウはモロキ目掛けて、ビームブレイカーを振り下ろす。
すると、それをビームサーベルで受け止めたMSが居た。レイルのフォートムだった。
「レイル少尉!?」
モロキが声を上げる。
「ッ…!シャドウ!もぅ、止めて!あなたの負けよ!」
「レイル…?どうして!?君までも裏切るのか!?」
「裏切る、裏切らないとかじゃない!!私は、モロキ大佐に生きて欲しいだけ!この戦いの真実を見極めた大佐を!!」
しかし、ディストラクションとフォートムのパワー差は歴然としていた。ブレイカーをサーベルで長時間受け止められる訳も無く、レイルのフォートムは右腕ごと切断されてしまった。
「僕は…!僕は…!!君だけには、心を開けた!なのに、君も僕を捨てるのか!!」
「シャドウ!違う!あなたも、真実を見極めなさい!」
「僕に真実も偽わりも関係無い!!目の前の敵を撃つしかないんだ!」
「─どうして!?」
レイルはバルカンで反撃するが、シャドウはバルカンに被弾しながらもレイルに迫っていく。
「戦うためだけに生きてる僕が!真実なんか見極めても意味がないことぐらい!わかっている!!」
「それは、違うわ!あなただからこそ、見極めなくてはならないの!!分かりなさい!!」
一進一退の攻防が続く中、セイルはシャドウの発言に耳を傾けていた。
(戦うためだけに生きてる…だと?)

一方、ランドはステルスを解除し、EN残量が56のメモリを指していた。

「シャドウは、セイル・ギアの息子なんでしょ!?」
「知らない!知らない、知らない!そんなの知らない!!」
「自分と正面から向き合いなさい!シャドウは、この戦いを忘れても良い!でも、本当の自分に気づき、見つけなさい!」
「本当の…自分?…うっ!うぅぅぅ…!!」
突然、シャドウを激しい頭痛が襲った。頭を抱え、その場でもがき苦しむシャドウ。
その隙を見逃さなかったセイルはシャドウに接近し、ディストラクションの頭部とネオビームブレイカーを破壊した。
「ブレイヴ!自分を縛り続けていた、シャドウ・ネィムを…自分の影を開放しろ!!」
「うぅぅぅ…!くぅ…!!」
シャドウは尚も頭を抱えていた。だが、右腕だけはスロットルレバーを握り締めていた。
次の瞬間、ディストラクションの両肩にあるメガビーム・キャノンからビームが発射された。
咄嗟に回避するセイル。その砲撃はレイルのフォートムにも向かっていた。それをモロキがビームシールドで弾く。
「攻撃しているのは…ブレイヴではないな!シャドウ・ネィム!!貴様か!!」
セイルが叫ぶと、ビームサーベルを抜き、ディストラクションに接近する。

つまり、ブレイヴ・ギアの体を通して攻撃して来るのは、シャドウ・ネィムの執念だった。フォーラン・アーズによって組み込まれた、シャドウ・ネィムと言う、ブレイヴの影だった…。

セイルはディストラクションのメガビーム・キャノンを両方とも破壊する。
「ブレイヴ!俺の声を聞け!そして…見つけろ!本当の自分と、俺の姿を!!」
「うッ……うぅぅぅ!!うぁぁあああ!!!」
シャドウが大声で叫びながら頭を抱える。だが、突然力が抜けたように頭を上げる。


─暗闇の中、シャドウは目を開けた。
「─!…誰だ!お前は?」
シャドウの前に立っていたのは、シャドウそっくりの少年だった。
少年は只、何も喋らずに立っている。
「お前は誰なんだ!?答えろ!」
シャドウが右手で少年を殴ろうとすると、少年は簡単に避けてしまった。
「ちッ…!気に入らない!その、何もかも知っているような目をして!!」
更に、殴りかかろうとするシャドウだったかが、これも簡単に避けられてしまう。
「くそっ!何か喋れ!それにここは何処だ!!僕は、ディストラクションのコックピットに居たはずなんだ!あと少しで、セイル・ギアを倒すことが…!」
シャドウが一瞬視線を逸らした隙をついて、少年がシャドウの右頬に殴りかかった。
「うぐッ!…くっ!お前ぇぇぇぇ!」
シャドウが反撃をするが、シャドウの行動が分かっているかのように、少年はパンチを避けていく。
「気に入らない!気に入らない!気に入らない!!」
尚も少年は黙り続けている。
「お前も!この場所も!全部気に入らない!!消えてしまえば良い!こんなの!」
「─君は」
突然、少年が口を開いた。
それに耳を傾けるシャドウ。
「あのまま戦っていても…父さんに負けていたよ…。君は─」
「父さん……!?もしかして、お前は─!?」
「─君は…僕の影。そして、人により生み出された執念…。君は、完全に僕を影で覆うことはできない。影は影でしかないから─。」
シャドウは頭を抱えながら苦しんでいる。
「─君は僕の影。影は影の中で生きるしかない。そして君は……消えなくてはならない。」
「…なんだと…!?」
シャドウは、激しい頭痛と胸が熱くなる衝動に駆られた。
「僕は…やっと見つけたんだ。─この真っ暗な所から出るための、一筋の光を。」
「─何を…!?うぅぅッッ!!」
「僕は負けない。君には絶対に負けない。影であり、生み出された執念である君には─!」
「影…?生み出された執念…?─僕が、そうなら!お前は何だ!?」
「僕は…僕は─!!」

「─僕は…ブレイヴ………ギア」
「ブレイヴ!?」
ブレイヴ・ギアはその言葉を発して、ゆっくりと目を閉じていった。
セイルはレボリューションをディストラクションに隣接させ、セイルは自機のコックピットハッチを開け、ディストラクションのコックピットハッチを開けようと、単身宇宙へと出た。
解除コードを入力するとコックピットハッチが開いていく。
セイルの目に映ったのは、気を失ったシャドウ・ネィム……いや、ブレイヴ・ギアの姿だった。
「…ブレイヴ…!」
セイルはブレイヴを抱きしめると、自然に涙が零れていた。
セイルはブレイヴを抱きかかえ、レボリューションのコックピットへと入った。シートの後ろ側にあるサブシートを起こし、そこにブレイヴを座らせた。
「─セイル、やったな。」
モロキからの通信だった。
セイルは無言のまま、首を縦に振った。


─エンデバル 第19格納庫
「─そうか。影は消えたか……分かった。」
フォーランは何者かと通信をしていた。どうやら現状でのシャドウの様子をモニタリングして、その結果をおそらく、彼の部下であろう人物から報告されていたようだ。
そこの場所は、どうやらMSのコックピット……にしてみれば、異様に広い。MAのコックピットのようだ。
(まだブレイヴ・ギアの執念が残っていたか…。さすがは、セイル・ギアの息子と言ったところか…。)
フォーランは一呼吸入れる。
「…さて…」
すると再び、呼び出し音が鳴った。フォーランは通信ボタンほ押すと、モニターに映ったのは、ドルバックだった。
「─報告は今聞いた。シャドウが失敗したようだな…」
「はい─。そのようで…」
「今更、シャドウの事でとやかく言う事は無い。まぁシャドウの失敗は想定の範囲内だ。だから、予備策としてお前にムーヴの開発を任せたのだぞ。」
「それは十分に承知しております。」
「頼んだぞ。我等の希望は最早、ムーヴだけだ─!失敗は許されない。」
そしてドルバックは通信を終了させた。
そしてフォーランはコンソール画面を見つめる。
「─ムーヴシステム…以上無し。」


フォーランは次々と、ボタンを押していった。
光が広がっていく。
「各部以上無し…では、発進するとしましょうか。これ以上…セイル・ギアに戦況を変えられては困りますからねぇ…!」
第19格納庫のハッチが開かれる。
「ムーヴ!!フォーラン・アーズ発進する!!」
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