最終話 「BIOS ―生命―」 議会軍艦隊とフェダール艦隊が戦闘を開始する前にフェダール側はブリーフィングルームにて全兵にブリーフィングを行なった。 そこで発表された主な内容は、全部で5つである。 1つは、全戦力で挑んでくることが判明した議会軍艦隊のこと。 2つめは、その議会軍艦隊がMB−FRに向かって集結・進行していること。 3つめは、フェダールはメガドライブエンジンで艦隊を敵艦隊の正面に移動させ、先制攻撃をとること。 4つめは、その後総力戦となるが、物量の差が激しい。各員、味方を援護しながら全力で戦うこと。 そして最後の5つめは、この戦いに勝利する為に成し得なくてはならないことだった。 時間をさかのぼる事…8時間前…。 ─MB−FRブリーフィングルーム ブリーフィングが終了かと思われた瞬間にモロキから発せられた問いに、全ての兵士の心に疑問が生じた。 まず議会軍との総力戦をするにあたって、フェダール側は圧倒的に不利であった。MSの操縦技術や物量、軍の統制などの分野に至っては激しい差がある。 ざわめき始める人たちを他所にルフェスは口を開いた。 「無論だ。まずは敵との総力戦の後、皆にはある作戦を行なってもらう。敵の巣を直接叩く……つまり議会軍本部への直接攻撃…作戦名『Naked King』!!」 「……裸の……王様?」 モロキはその作戦名に疑問を抱いた。だが、ルフェスの怒声にも似た声がざわめいていた人間を沈黙させた。尚もルフェスは口を閉じない。 「最初に、メガドライブエンジンで敵艦隊の正面に展開して先制攻撃の後、総力戦を挑むのは先に伝えた通りだ。肝心なのはこの後だ。タイミングを見計らい、ある一定のポイントに展開している敵艦隊を掃討してもらい、一本の道筋を作る。その空いた空間を我がフェダールの兵器が突入し、大気圏に進入した後、議会軍本部のハワイ諸島を攻撃し、壊滅させる。そうすれば議会軍の指揮系統は混乱し、統制もなくなれば、敵兵士の精神的な脱力にも繋がる。」 今まで口を閉じていたモロキが遂に口を開いた。 「その作戦とやらは良く分かった。だが、ハワイ諸島を攻撃するなんて……!ただでさえ宇宙には議会軍の全艦隊がいるんだ!ハワイの守備軍も相手になんか…!」 「モロキ、議会軍の『全艦隊』が宇宙に居るのだよ?」 「分かってい─!」 モロキは何かに気づいた。『全艦隊』という言葉にモロキはようやく気づいたのだ。 ルフェスは両手を組む。 「言葉というのは…難しいものだ。言葉にも本質があり、表裏がある。その言葉の持つトリックに引っかかってはいけないのだ。『全艦隊』…つまり、地球上には一切、議会軍の部隊は存在しない…。簡単に言えばな。」 「─と言う事は…今のハワイ諸島は無防備!?」 「そうだモロキ。そしてこれから6時間後に議会軍の上層部による緊急招集会議がハワイで行なわれる。『裸となった王様』を叩くには絶好のチャンスだ。世界を再び『再生』へと導く為の…な。」 「なるほど…。だが再生……って?」 続けてモロキが質問する。 「この宇宙には、再生・進化・破壊の3つの輪廻がある。これは自然の摂理、人により生み出されし法則。人により変えられし運命ならば、それを変えるのも人だ。自然のままに行なっているだけでも駄目なのだ。行き過ぎた『進化』を裁くのも人であり、『再生』を呼び起こすのも人なのだ。ならば人類は自分の手で『破壊』を遂行せねばならない。そうやって世界は…変わっていくのだ。」 全員が何かを感じたような目をしている。そり眼差しはルフェスだけを捕らえていた。 「─話を戻そう。そのハワイ諸島を攻撃する為に、ワザワザ部隊を削ることはなるべくしたくない。下手をすれば宇宙の艦隊が全滅しかねない。そこで新造艦のテレスを母艦とし、新たに内臓された『Tオクスタン』でハワイ諸島を一撃で沈黙させる。それなりの威力がある砲だ。尚Tオクスタンを使用する際、その砲のコントロールを担当するにはMSが1体必要となる。それをランドのエボリューションが担当してもらう。ランド、アルミー、良いな?」 2人は首を縦に振る。 それを確認した後、ルフェスは後ろの巨大モニターに目を通す。 「ハワイを沈黙させる程の火力を引き出すには、テレスだけのジェネレーターでは正直無理だ。そこでエボリューションのジェネレーターも使えば、ハワイ諸島を壊滅させられることが可能なのが判明した。しかし、ランドの戦力を省くのも無理だ。エボリューションには規定のエネルギー残量に達したらテレスに帰艦しろ。これだけは守れ、ランド。」 つまり、タイミングを計り、ある一定の場所の敵艦隊を一斉射撃で掃討後、空いた空間をエボリューションを載せたテレスがメガドライブエンジンを使い、敵簡単を突破し、そのまま地球に降下。降下後はTオクスタンでハワイ諸島を議会軍の上層部諸共、葬り去る……と言うものだ。 「これでブリーフィングを終了する。私達は世間から見ればテロリストなのかもしれない。自らの手で『破壊』を遂行することが、どれほど甚大な被害を及ぼすか…考えただけで私は……。だが、誰かがやらねばならない。この戦いの後、私はどんな罰も受けよう。世界……宇宙を混乱に招いてしまったのは事実なのだからな。しかし私は未来に絶望した訳ではない。希望を持っているからこそ、このままでは行けないのだと!…そう感じた。皆には本当に感謝している。最後に私に力を貸してほしい。我々が悪でも仕方ない。だが我々は逃げてはいけない!己が守る物の為に…!頼むぞ!諸君!!」 そして皆が納得した上でブリーフィングは終了した。 そして8時間後にその作戦は決行され見事成功し、テレスはハワイ諸島上空に降下することができたのだ。 休む間もなく、ランドはエボリューションを出撃させる。それと同時にテレスはブリッジ前方のカタパルトを展開し、大型の大砲を繰り出した。その銃座らしき所にエボリューションは接続され、エネルギー供給が始まる。 「続いて、GOAポッドを射出!!」 アルミーが指示したのはGOAポッド[Guard Of Abis]と呼ばれる、海水と爆風を同時に防ぐことができるシールド発生装置を射出したのだ。 ハワイ諸島を殲滅させるに当たって、それによる爆発により大きな津波が発生し、周りの海域に影響を及ぼしかねない。 そこでポッドを射出し、ハワイの海中に沈ませ、シールドを展開、ポッドとポッドは互いを結び合い、ハワイ諸島はアビスの盾により封鎖される。そのシールドは海水と爆風も通さない壁となる。 一方、宇宙では先程の出来事がなかったかのように、議会軍艦隊の優勢が続いていた。フェダールの艦隊は月へと徐々に後退していたのだ。いや、後退せざるをえなかった。 ムーヴもまたフェダールの艦隊を次々と壊滅させていた。 モロキ達は議会軍のMSを相手にしながらも、ムーヴに攻撃の手を休めなかった。 しかし、モロキ達の健闘空しく全ての攻撃はムーヴのシールドが弾いてしまう。 「ロマード、アルジネス!散開して、MAを囲め!!」 「了解!」 モロキからの指示を承諾する2人。 アルジネスは過去にスパイルとの戦闘経験があった。最初は悔しさしか残っていなかったが、モロキ・グレンと言う男がパイロットだったと分かると、怒りは信頼へと変わって行った。それはモロキが歴戦の勇者でもあり、MSの操縦技術が自分以上で、尊敬に値する人物だったからだ。 「道を塞ぐ!?やってくれる、MS!」 ムーブは拡散ビーム砲を体中から斉射する。3人は回避しながらも各自の武器で反撃を行なう。 「ハハハハッ!!無理なのだよ…そんな物でぇぇぇぇ!!」 「フォーラン!?」 フォーランの異常な精神にモロキは戸惑いを隠せなかった。 「何が真実だ!?何が正義だ!?そんなもの……そんなものぉぉぉ!!」 「何が起きている!?回線が開いている?─ウッ!!」 「人は進化しているんだぁ!何故それを止めようとするぅぅ!?再生などぉぉぉぉ!」 「─!こいつ…3つの輪廻を知っているのか!?」 一瞬モロキの攻撃が止まった。フォーランはその隙を逃さなかった。 「死ねぇぇぇぇ!!」 ムーヴは左腕を振り上げ、ヴァイス・パニッシュを起動させた。その巨大な腕はスパイル目掛けて振り下ろされた。 咄嗟に目を瞑るモロキ。だが被弾しなかった。確かにあのまま行けば直撃し、自分は死んでいただろう。恐る恐る目を開き前方ほ見る。 そこらはレボリューションの姿があった。ムーヴの左腕をレボリューションの『ビーム・G・ソード』が防いでいたのだ。 「セイル…!」 「気を抜くな…!モロキ…次からは助けられんぞ。」 「オッケー…助かった。」 「俺がフォーランを『こいつ』で相手をする。その隙にモロキ、ロマード、アルジネス…お前たちはMAに取り付き、零距離射撃を浴びせろ!それしか方法はない!!」 セイルはスラスターを全開にし、ムーヴを押し戻し始めた。 「何!?…推力が落ちいてる!?やつにパワー負けしていると言うのか!?」 「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」 セイルは叫び、ムーブの左腕を弾いた。すぐさまビーム・G・ソードを降り下した。 しかし咄嗟にソードとムーヴの間にG・ソードS−Rを持ったRUINが割り込んできた。 ソードS−Rがビーム・G・ソードを防ぐが、先の戦闘の通り、ビームはS−Rを溶かし、RUINは切り裂かれた。そしてその隙にムーヴは後退する。 「RUIN達は攻撃するだけではない…。私を守る盾ともなるのだよ!」 「チッ!!」 「全て消えろぉ!!」 「くッ…こいつこそが破壊の化身だ!モロキ、ロマード、アルジネス!散開しろ!的になるぞ!!」 ムーヴは持てる全ての武器を一斉に乱射している。 セイル達はそれを回避するしかできなかった。しかしその攻撃を受けるのはセイル達だけではない。 味方の議会軍側にも多大な被害が及んでいた。 セイルは直感した。今なら議会軍側も道連れにできる…と。 「全員、議会軍艦隊に突入しろ!今なら戦況を覆せる!!」 セイルが言葉を発するとモロキ達は議会軍艦隊に突っ込んで行った。 その後を追いかけるムーブとRUIN達。 セイルの読み通り、ムーヴからの攻撃は議会軍側も道連れにしていた。 その状況をモニター越しに見ていたドルバックは焦りを隠しきれない。 急いでフォーランへの呼びかけを行なう。 「システムが作動し始めた…!──フォーラン!!聞こえているだろ!?フォーラン!!」 当然フォーランもドルバックからの呼びかけは聞こえていた。しかし、ムーヴに搭載されている『ムーヴシステム』が強制的に回線を閉じた。 ムーヴシステムとは、ムーヴに搭載されているシステムのこと。ムーヴ並みの巨大MAを自在に操作するには人間一人では無理に近かった。そこでシステムを組み込むことによってパイロットの負担を軽減し、システムはムーヴを起動させる上で必要不可欠な物となった。 システムを搭載したことによってムーヴは計画通りに起動した。しかし、ムーヴシステムには重大な欠点があった。 それは、パイロット自身に膨大な影響を及ぼすことであった。システムはパイロットの五感を強制的に上昇させる。それによりムーヴはシステムの能力もあり、超高性能MAとなる。しかし、長時間の使用によりパイロットの五感を常に上昇させてしまう為、人間の五感は限界を突破し、幻覚症状、挙動不審、精神崩壊へと繋がってしまうのだ。 今のフォーランはムーヴシステムに完全に取り込まれてしまっていた。 既にフォーランの五感は限界を突破し、大変危険な状態へとなっていた。それにより、今まで冷静だったフォーランも気性が激しくなっているのだ。 セイル達は互いに一定の距離を置きながらも敵艦隊の中を進行していった。するとモロキの目に映ったのは黒い船だった。 「あれは……ライグランズ!」 ─ライグランズ 今だ尚、エネルギーが充填完了している主砲を維持させながら進行を止めていたライグランズでは観測班が撮影しているムーヴの映像をカナンが目視していた。 見る映像1つ1つが有り得ない事の連続だった。 さきほどのルフェスの演説により、ブリッジクルー達は自分たちが何を成すべきなのかを悩んでいた。その光景は生きる力さえ失った人間を見るかのようだ。 この状況にカナンは決意を固めた。 すると、前方から敵4機のMSが接近してきた。 カナンはモニターでチェックする。 「……スパイル!?大佐!」 カナンは呟く。接近していたのはセイル達だった。その後からムーヴがセイル達を追いかけてくるのが見えた。 「こちらへ来る…?」 「─!艦長!通信です!あの青いMSからです。」 「─えッ!?モロキ大佐!繋いで正面モニターへ!」 オペレーターが回線を繋ぎ、正面モニターへと回した。 モニターにモロキの顔映る。 「─!カナン!?ライグランズの艦長がカナンか!?」 「大佐…!」 カナンはモロキとの再会を心から喜んだ。しかし、今はその感動に浸っている場合ではない。カナンは自分の心を殺してモロキに接した。 「…はい。私がこの艦の臨時艦長を…。フォーラン・アーズがあのMAに乗っていますから…。」 「レイルから聞いたか。ここは俺たちを通させてほしい。できることなら、ライグランズには……」 モロキ達の後ろではセイルとロマード、アルジネスの3人がムーヴと交戦していた。レボリューションがビーム・G・ソードでムーヴのヴァイス・パニッシュを受け止める。ロマードとアルジネス、2機のエクスセイバーはビームランチャーを連射しながらムーヴの背後に周ろうと奮闘している。しかし、ムーヴの攻撃とRUIN達の猛攻により中々後ろを取ることができないでいた。 そのムーヴの攻撃はスパイルにも行き届いていた。 「くそッ…!!」 スパイルはビームシールドで敵の流れ弾を弾きながら両肩にツインビームランチャーを構えムーヴに向かって発射する。 その頃、地球のハワイ諸島近海ではTオクスタンのEN充填をしているテレスがいた。 ハワイ島の緊急シェルターが起動して早5分が経過していた。 「……EN充填完了!!アルミー!」 エボリューションのコックピットからランド叫ぶ。 「了解!目標!ポイントD36、H52に固定!」 「固定完了。テレスは砲撃モードへ!」 「ランド!」 ランドがTオクスタンを指定されたポイントに向ける。 「これで最後だ。終わらせる!」 『この後に、望む世界が来るために…』 「行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」 ランドはボタンを押した。Tオクスタンは激しい轟音を響かせながらビームを発射する。そのビームは目標に向かって雲を裂いて行く。 ビームはそのままシェルターに直撃した。 その地下では上層部の高官達が脱出の準備を進めていた。徐々にではあるが、ビームはシェルターを突破し始めていた。 『……ランド、この機体の全てのENを注ぐ。』 (…!!そんなことをすれば、君は!?) 『大丈夫。君と僕は、常に一緒だ。今までありがとう…ランド。君には感謝しきれない想いで一杯だ。』 (……君とは不思議な出会いだった…。今までありがとう!そしてこれからも……) ランドはエボリューションの残ったEN全てをTオクスタンに注入した。それにより、オクスタンから発せられるビームがより強大になった。 それにより、議会軍の本部を匿っていたシェルターを貫通させることができた。 「この地響きは…!」 「急がんと…!エンデバルへの連絡は!」 「妨害電波が出ていると言ったであろう!」 「総戦力を宇宙へと出させたのが裏目にでて─!!」 「最初に言い出したのはあんたであろう!!」 「何!?うッ─!光…」 高官達の叫び声など聞こえなかった。一瞬にして議会軍の本部はその機能を停止した。次々と爆破連鎖で建物が崩壊して行く。 それにより大津波が発生した。 「GOAシールド!出力あげて!」 アルミーの緊張はまだ続いていた。もしGOAシールドが突破されてしまったら作戦は失敗になってしまうからだ。 その同時刻、ライグランズのブリッジではカナンがキャプテンシートに座っていた。 「…皆さん、私達が決断する時が来ました。このままMAの攻撃によってこの艦と共に死ぬか…。それとも自らの心を動かし、強大な壁に戦いを挑むか…。」 「艦長…」 「皆さん…私達─」 「─艦長!AAAクラスの電文です!…たった今、本部が壊滅…!?」 オペレーターが声を上げた。 「─!それはホントなの!?」 「本当です!周りの他の艦隊にもこの情報は届いています!」 「…全ての戦力を宇宙へと上げた結果ね…。自業自得と言えば、それまでね。」 次の瞬間、またモニターの映像が雑になった。 カナンも急いでモニターを見る。 するとそこには再びルフェスの姿が映し出されていた。 「…この宇宙は今、『破壊』の時が来ている!これは宇宙の必然!訪れる運命だ…。宇宙世紀0258…議会軍に『再生』が訪れた。ジング・シグマ率いるグレード・シグマは宇宙の流れに背いて、『破壊』を遂行しようとした!そして生まれたのがRシリーズ!戦火はRシリーズの量産計画、『R・プロジェクト』によって議会軍側が優位に立ち…結果は皆が知っている通りだ。」 再び始まったルフェスの演説に全ての人間が耳を寄せた。 「その後、宇宙世紀0260…議会軍の壊滅による、復旧の為の地球と宇宙の和解…人の思いが『進化』を呼んだ!そして次なる運命は…『破壊』!人による罪ならば!それを破壊するのも人だ!!欲に酔いつぶれた者達を裁くのは我等の役目!」 ただ1人だけ…フォーランだけは叫びながら攻撃を繰り出していた。 「見たまえ!議会軍と政府が生んだ業の塊が、あのMAだ!全てを消し去るために、味方の戦艦までをも破壊している!これが議会軍の正義なのか!?これが人類をより良き方向へと進化させるのか!?違う…このまま俗物が行き続ければ、再生も無い…只の破壊に満ちた世界となってしまう!!それで良いのか!?もう一度、自分の心に訊くのだ!!世界を守らないで、何の武器だ!?何の想いだ!?自分達の世界を守り抜く!それが君たちの大義のハズだ!!心を動かせ!!行動に移さなければ、何も動かない!何も生まれない!何も訪れない!全ては…自分を信じることだ!!未来を見る目を失うな!!」 すると回線は通常通りに戻った。 「心を動かせ…」 「再生…進化……破壊?」 「心に訊け…」 「俺たちの世界は…!」 「こんな小さいものじゃない!!」 「この戦いを終わらせる為には…!」 フェダールと議会軍側の攻撃が一斉に止んだ。 その状況を見たカナンは口を開いた。 「主砲…発射します!目標は……」 ブリッジクルー全員が首を縦にふる。 「目標は!前方のMA!!主砲!うてーー!!」 カナンが叫んだ。その声はモロキにも聞こえていた。 ライグランズから主砲が放たれた。 フォーランはセイル達を相手にしていたのでまだ気づいていない。フォーランが気づいたときには主砲のビームがムーヴを直撃していた時だった。 「な…!?これはぁぁぁ!!??」 ムーヴのコンソール画面が警報を鳴らしている。I・フィールドが限界点に達していた。 すると主砲のビームは、シールドによってビームの軌道が反れた。そのままビームはルーラパックに直撃した。 パックはI・フィールドによって守られてはいたが、その部分のシールドが耐え切れずビームはフィールドを貫通し、ルーラパックは大爆発を起こした。 それにより、周りにいたRUIN達は強制的に機能を停止した。カメラアイの発光が止み、宇宙空間を漂い始めたのだ。 一方、それでも一部の議会軍艦隊はフェダールに対して、攻撃の手を休めていない艦隊があった。 それを迎撃していたフェダールの艦隊に援軍として現れたのは周りにいた議会軍のMSだった。 「どういうことだ?」 フェダールのMSパイロットが周りを見渡しながら言う。 「この戦いの真実を知った今!そちら側と戦う意思はない。ならば、いち早くこんな戦いは終わらせるべきだ!だから俺たちは、あんた達に強力する!たとえ…味方を敵にまわしてもだ!」 「今の議会軍に正義はない…。心が動いた気がする!まずは、あのMAを止めなくちゃな!」 「俺たちが守りたかったものは…争いのない世界だ!」 「もう1度やり直すんだ!その為に!」 その光景に目を潤せたのはルフェスとキュアだった。 「ルフェス!これって!!」 「あぁ…。人は再び…再生するのだ。」 逆にこの光景に苛立っていたのはドルバックだった。 「こんな…!馬鹿な!!本部が潰れ、内乱が起こっているだと!?フォーラン…この結果だ!貴様の研究の失敗が原因だ…!フフフ…そうさ!全ての責任は貴様なんだ!!私のせいではない…!」 ドルバックの精神が崩壊して行く。 フォーランの耳にもこの声は聞こえていた。フォーランは目を見開いた。ムーヴは大型スラスターを吹かし、エンデバルに向かって行く。 その行動にセイルは疑問を感じた。 (なんだ…?これは…?) 「モロキ!エンデバルに向かう!!ロマードとアルジネスは、ズエンの艦が来るまで待機だ!」 ムーヴに対しての攻撃を始めた議会軍のMS部隊。だがムーヴにとって議会軍の量産型MSのゼクラールなど雑魚中の雑魚でしかなかった。次々とゼクラールを破壊していく。 するとエンデバルに向かう途中、イースター・ガイム将軍が搭乗している艦隊に遭遇した。 イースター艦隊 旗艦パルディ イースター将軍は艦隊の旗艦であるパルディに搭乗している。直接的な指示は別の艦長が勤めている。 ブリッジは重苦しい空気で満たされていた。そんな中、イースターが口を開く。 「──艦長。撤退の準備を進めろ。」 「は!…しかし!」 「構わん!そもそもドルバックが全戦力などと言うから、ハワイが壊滅したのだ!私の責任ではない!!まずは残存した戦力を集めて…」 「内乱が起きているんです!」 「分かっている!」 「将軍…!私は、30年以上軍人をしておりますが、ルフェス・シグマが言っていた事が真実だとすれば……私は貴方方に銃を向けるしかありません!この争いの原因が、こちら側にあるのでしたら罪を認めるべきです!」 「今更…!……貴様も!フェダールの言う事を信じるのか!?」 「それは─!」 イースターと艦長、2人の会話にオペレーターが割って入った。 「艦長!こちらの艦隊に接近する熱源があります!これは─!」 光が走った。 光はムーヴによる攻撃だった。 「フォーラン!?」 イースターが呟く。 ムーヴから発せられた赤外線がパルティの至る箇所に付着する。当然、ブリッジにも付着した。 「まずい…!艦長!全砲門をあのMAに向けろ!ミサイルを発射させるな!!」 「何です!?」 「早くしろ!」 パルティの艦長はあのミサイルの性能を知らない。 いや、知らないでいて当然なのだ。 しかし今のイースターにはそんな判断はできないでいた。 「前方からミサイルが発射されました!その数15!」 「くッ!ミサイルを迎撃させろ、艦長!」 パルティが持てる武器全てをミサイルに向け発射する。 しかしミサイルは弾幕をすり抜けるようにパルティに向かって行く。 「駄目です…!迎撃できません!!」 「なんだと言うんだ!?あのミサイルは!!」 パルティの艦長の悲鳴にも似た声がブリッジに響き渡る。 「ミサイル…来ます!」 「─くッ!」 次の瞬間、ミサイルがパルティのブリッジを直撃した。ブリッジから炎が上がる。そしてそれを期にミサイルは次々とパルティの着弾した。 そしてムーヴは、パルティの周りに居た艦隊を殲滅させた後、エンデバルに向かい再びスラスターを吹かす。 その頃、ロマードとアルジネスのエクスセイバーはドス3番艦と合流し、セイル達の後を追おうとしていた。 「ロマード、アルジネス、補給は良いのか?」 ズエンが2人にモニター越しに話す。 「必要ない。今はあのMAを早く破壊しないと…。な?アルジネス?」 「あぁ。兄さんの言う通りさ。補給をしている暇はない。急いでセイルさん達の後を追わないとね。」 2人の硬い意思にズエンは微笑む。 「よし!ドスは全速前進!セイル・ギアとモロキ・グレンの後を追う!」 その頃、セイルとモロキの2人はムーヴを探していた。そしてムーヴの反応を見つけたのはモロキだった。 「居た!ポイントR89だ。やはり、エンデバルに向かってる…。」 「補給…とは違うようだが…?んっ!?」 セイルが何かを発見した。しかしその残骸はセイルには何か分からなかった。 モロキもその残骸を発見する。 「この残骸……イースター艦隊の物だ!パルティ…と言ったか。」 「攻撃部隊総司令…将軍の旗艦が壊滅……。次はエンデバルの司令官か!?」 「…そうか!その通りだ!2人の司令官を殺す気だ!フォーランは!!」 「何だと…!とにかくフォーランを追うぞ!モロキ、ズエンにエンデバルに向かえと伝えろ!」 レボリューションとスパイルはスラスターを吹かしエンデバルに向かう。 エンデバル 総合司令室 「司令…!どちらへ!?」 「残存した艦隊を集めて、このエンデバルの護衛に着かせろ!」 「しかし…!どの艦隊が味方か…分かりませんよ!?」 「やるんだよ!」 ドルバックとオペレーターが対峙する。 ドルバックは明らかに脱出する準備をしていた。 するとエンデバルに衝撃が走った。 その大きな揺れは司令室でも感知した。 「なんだ…!?」 一番最初に声をあげたのは他でもないドルバックだった。 モニターに映像が映る。 そこにはエンデバルに全火器を放射しているムーヴの姿があった。 「フォーラン…!?─貸せ!」 ドルバックはオペレーターのマイクを無理矢理取り上げ、自らの頭にかけた。 そして、通信先をムーヴに合わせるやいなや怒声にも似た声をあげた。 「フォーラン!!貴様…!何をしているのか!?分かっているのかぁ!!??」 「ハハハハハハハ…!!!!ドルバック・アンド……お前も死ね。」 「何!?」 「貴様のような輩は!死んで詫びろ!」 「─全ての責任にはお前に…!」 「まだ言うか!!」 ムーヴの攻撃は着々と司令室まで行き届いていた。 司令室に近くになるにつれ、揺れが大きくなっていく。まともに立っていられない。ドルバックの体が宙にあがる。 「うッ!司令!もうエンデバルは─!!」 「保たないかッ…!?ちぃ!」 「総員に脱出の準備を─!」 「いかん!全ての兵に、フォーランを撃たせろ!」 「まだ分からないんですか!?状況は貴方が思っている程…!」 次の瞬間、爆発が司令室を包んだ。炎がドルバックやオペレーターの体を燃やす。 それを気にエンデバル内部で連鎖爆発が次々と起きていった。 「フフフ…ハハハハハ!!」 フォーランの雄叫びにも似た笑い声が宇宙に響き渡った。 その状況を確認したセイル達がムーヴを発見する。 「エンデバルが…!フォーランがやったのか!?ドルバックだけでなく…他の議会軍兵まで!?」 モロキがその状況を見て絶望した。セイルにも、レバーを握っている手に自然と力が入ってしまう。 「モロキ!!フォーランを討つ!…行くぞ!!」 「…あぁ!」 スパイルは両肩にツインビームランチャーを接続する。セイルはダブルビームサーベルを取り出す。 2体はフルスピードでムーヴに向かう。 それを肉眼で確認したフォーランは迎撃体制をとる。 前方から大量のビームが乱射され、迫ってくる。 セイルとモロキは巧みに機体を操り、かすりはするもののビームを次々と回避して行った。 「フォーラン・アーズ!俺は、あんたを討つことにためらいは無い!」 「フンッ!お前にムーヴが倒せるものか!?」 「舐めるな!」 スパイルからツインビームランチャーのビームが次々と発射された。 しかしまだムーヴのIフィールドは生きている。やはりビームは弾かれてしまった。 続いてスパイルは両脚のミサイルランチャーを発射した。 ミサイルがムーブに着弾する。 それにより煙がムーヴを包んだ。フォーランは前方が見えなくなる。 煙が消えたところにレボリューションのダブルビームサーベルがムーヴから赤外線が放出される砲身を次々と破壊して行く。 それに続いて左肩のミサイル発射パックを破壊した。 しかしそれでも赤外線を放出する砲身全てを破壊するまでには至らなかった。 「やってくれた…!」 フォーランは笑う。それは余裕に満ちた笑みと違う。 「いつまでも接近戦が利く戦いじゃない…!早くIフィールドを消さなければ…!ジェネレーターは何処だ!?」 セイルがビームシールドでムーヴからの砲撃を弾く。 すると後方から戦艦の砲撃がムーヴに被弾した。 「ズエンか!?」 モロキが叫び、後方を見る。 ドスの3番艦とロマード、アルジネスのエクスセイバーが来た。 「いくらシールドが強くても、戦艦の砲撃を当て続ければ、シールドが耐えられなくなるハズだ!!全砲門を前方のMAに!」 ドスは前進しつつ、全砲門を開き、その一斉砲撃がムーヴに向かう。 その左右からロマード、アルジネスの2人がムーヴを挟むように移動しながらライフルを連射する。 「兄さん!俺が接近する!援護して!!」 「分かった。ビームランチャー!」 ロマードのエクスセイバーがビームランチャーを構えムーヴに向かって放つ。 そこにビームサーベルを構えたアルジネスのエクスセイバーがムーヴに切りかかろうとしていた。 「コックピットは…!そこかッ!」 アルジネスがムーヴのコックピットを捉えた。ムーヴのヘッド部分だ。 誰もがこの攻撃により、ムーヴが止まると思った。ムーヴのヘッド周辺には内臓火器はない。完全に無防備だったからだ。 アルジネスも絶対の確信を得ていた。 だが誰もが想像していなかった事態が起きた。 突然ムーヴのヘッドから砲身が現れ、赤い光がアルジネスのエクスセイバーを捕らえた。 突然のことでパニックになったアルジネスは操作を誤り、後退してしまった。 「赤外線…ッ!?そこにもあっただと!?」 セイルが声をあげた。 その次の瞬間、ムーヴの右肩にあるミサイルパックからミサイルが発射された。 アルジネスはミサイルをバルカンで迎撃しようと試みた。 しかし、ミサイルは弾と弾の間をすり抜けるようにエクスセイバー目掛けて迫ってくる。 「なんだよ!?これはッ!!」 アルジネスが声をあげる。 「アル!」 ロマードが叫びながらアルジネスのエクスセイバーに向かって行く。 「くそッ!」 アルジネスはミサイルに対しての回避運動を始めた。しかし、ミサイルは進める手を休めずにアルジネスに向かっていく。 「うぁぁぁぁ!!」 アルジネスは叫びながら必死にライフルを乱射する。 すると、ミサイルはライフルに被弾に爆発した。アルジネスはほっと息をつく。そして左方を見ようとした。 次の瞬間、ビームがアルジネスのエクスセイバーを貫通した。ムーヴからの砲撃だった。 「アル…!」 ロマードが目を見開く。 エクスセイバーは爆散した。脱出して形跡も無かった。 「アルーーーーーーー!!!」 ロマードの悲鳴がエクスセイバーの爆発音が掻き消していた。 アルジネスの死亡に悲鳴をあげていたのはロマードだけではなかった。 「いや…いやぁぁ…アル!!」 ドス3番艦のオペレーターをしていたジェニファーは泣き叫んだ。 隣に居た女性のブリッジクルーがジェニファーのに近寄る。 その状況を見たズエンが体を震わせながら指示をだした。 「全速前進だ!MAを撃て!」 その声には怒りさせ感じさせていた。 「アルジネス…!───モロキ!これ以上、犠牲は─!」 「分かってるよ!アルの敵は討つさ─!…ロマード!聞こえるか!?」 スパイルはツインビームランチャーを両肩から外し、ビームサーベルを抜く。 一方のロマード機は動きを止めている。 するとムーヴはスラスターを吹かし、接近していたドスに迫っていく。 それを見たモロキは声をあげる。 「─!ズエン!前に出すぎだ!!下がれ!」 しかし、モロキの声は今のズエンには聞こえなかった。一方、オペレーターのジェニファーはそれ所ではなく、泣き叫ぶことしかできないでいた。 ドスの舵を取っていたクルーが叫ぶ。 「MA…!接近してきます!!艦長!」 「撃ちまくれ!狙いはコックピットだ!」 するとムーヴは右肩を上げた。 「くッ…!間に合えぇぇ!!」 レボリューションはダブルビームサーベルを投げ捨て、ビーム・G・ソードを取り出し、ビーム刃を形成させながら、ムーヴに向かった。 しかし、ムーヴのヴァイス・パニッシュは、セイルの願いも空しく、ドスのブリッジを潰した。続いて零距離でのメガビームキャノンがドスを貫く。それによりドスはブリッジを筆頭に爆発を起こした。 「ちぃッ!!」 「─!くそぉぉぉ!!」 セイルがコンソールを叩く。モロキも叫びながらコンソールを叩いていた。 「ズエン……ジェニファー……!──!!キャリー!!!!」 ロマードが泣き叫んだ。 ドスにはキャリーも搭乗していたのだ。 ドスのMSデッキにも爆発は行き届いていた。 キャリーは頭から血を流し、多くの整備兵と共に宙に浮いていた。 (ロマード…) 薄れ行く意識の中、キャリーを爆発が包む。 と同時にドスは爆散した。 多くの犠牲者の魂がロマードに憑依した。 ロマードは涙を流しながらその目は怒りに染まっていた。 「……うわぁぁぁぁ!!!」 ロマードは泣き叫びながらムーヴに向かっていく。その手にはビームサーベルを持っていた。 ムーヴはそれに対し、拡散ビーム砲を乱射する。 ロマード機は右足、左腕など至る箇所を被弾しながらもムーブに向かう姿勢を貫いていた。 「お前だけは…!お前だけはぁぁぁ!!!このぉぉぉぉ!!!」 ロマードの叫びがモロキとセイルに何かを感知させていた。 「─ッ!!ロマード!?」 「これは…この力…」 それはフォーランも同じであった。 「何だと言うんだ…?この威圧感は…!?」 フォーランにもある種の違和感を与えていた。 しかしムーヴからのビーム砲は止まない。 遂に、ロマード機がムーヴの近くに迫っていた。 「ロマード!」 セイルの叫びが遂にロマードに伝わった。 そしてロマードはそのセイルの言葉に気づき冷静になった。 (─!セイル…さん?) ムーヴからのメガビームキャノンがロマード機の下半身を焼き払った。その爆発はコックピットにまで届いていた。ロマードの体は爆発に包まれた。だがロマードのエクスセイバーはそのままの勢いでムーヴに突撃していく。 これはフォーランには予想外の出来事だった。 レバーを動かした時には既に遅かった。 エクスセイバーのビームサーベルがメガビームキャノンの銃口に突き刺さり、そのままムーヴのシールドジェネレーターを破壊した。その爆発の勢いでロマードのエクスセイバーは完全に爆散した。 ムーヴのシールドジェネレーターはメガビームキャノンの銃口の後ろ…機体の中心部にあった。 それをエクスセイバーのサーベルが銃口を突き破った結果、ジェネレーターをも破壊したのだった。 それによりIフィールドはその機能を無くし、メガビームキャノンも使用できなくなってしまった。 ムーヴは、その大きな巨体が仇となり、只の『大きな硬い的』になってしまった。 このチャンスをモロキは見逃さなかった。 「貰った…!フォーラン!!」 スパイルはライフルを捨て、ムーヴに迫りながらビームサーベルを抜いた。 「モロキ・グレン!?やらせませんよ!!」 ムーヴは右腕のヴァイス・パニッシュをスパイルに目掛けて振り払うように右へと腕を移動させた。 「何ッ─!?」 モロキは急上昇し回避しようしたが、完全に回避することはできず、両足がビームの刃によって切断されてしまった。 「やっちまった…!!」 「モロキ!」 続いて左腕のヴァイス・パニッシュがスパイルを襲う。 それをギリギリの所でレボリューションがビーム・G・ソードでヴァイス・パニッシュを弾き返した。 「もう2度とないと言ったはずだが─!」 「うるせぇ…。余計なことを!」 「その状態では…。んっ!?そちらの赤いMS…聞こえるか?」 後方から接近してきたのはレイルのフォートムだった。 セイルはレイルに通信を試みた。 その通信にレイルは驚きを隠せない。 「えッ!?…あ!はい!」 「そこに居る、モロキ・グレンを頼む。」 「えっ…!」 するとセイルはムーヴに向かって迫って行った。 レイル自身、あのセイル・ギアと通信越しではあるが、話すことなど夢にも思っていなかった。 (あれが…あのセイル・ギア!─あッ!モロキ大佐!) レイルのフォートムが、被弾し宙域を漂っていたスパイルに近寄る。 「大佐…。大丈夫ですか?」 「レイル?…あぁ。大丈夫だ。戦線離脱だな…情けないぜ。」 「そんなこと…」 「セイルは!?─ムーヴと1人で!?」 すると、後方から来ていたライグランズがスパイルとフォートムを補足した。 「─ッ!大佐!…レイル少尉!」 「カナン…!─はい!」 「その宙域は危険よ!大佐が動けないなら尚更。大佐をライグランズへ!」 そのレイルとカナンの通信にモロキが待ったをかけた。 「待ってくれ!セイルだけを戦わせる訳には─!」 「大佐…分かりました。とにかく一度ライグランズへ。どの道…その機体では…」 「くッ…!分かった。そちらの指示に従おう。」 その頃、ムーヴとレボリューションは互いの剣を準備しながらも攻撃を止め、向き合っていた。 先に口を開いたのはフォーランだった。 「ようやく…あなたを殺せるときが来ました。」 (─!先程までの狂気は感じない…。) 「─システムの発動は一時的なものだ。冷静になれば…こっちのものよ。」 セイルはライフルを手にとる。 「過去のあなたが幾ら英雄でも…今のあなたは只の反逆者でしかない。」 「お前と違って、俺は過去の自分に執着していない。過去は捨てた…家族も。新たに作るのは未来だけで良い。」 「そのあなたに未来があれば、の話です。」 「そうだろうな…例え、この戦いに勝利しても…俺の未来は潰えているかもしれない。」 「─ならば今ここで完全に潰えて差し上げますよ!」 ムーヴから赤外線が放出された。 セイルはそれを回避し、ビームライフルとメガビームキャノンを発射する。 ムーヴはIフィールドが無い。その為、ビームはムーヴの巨体に着弾した。 しかし、MAの装甲は伊達ではなかった。少し被弾した後が残る程度で、大したダメージを与えることはできなかった。 続いてビームチャクラムを射出する。 ムーヴは拡散ビーム砲でチャクラムをワイヤーごと焼き払った。 「また戦いを起こして…!世界を再び混乱に導いた…!何故!?」 フォーランの問いにセイルは答える。 「それは…お前たちが……いや、人類が経験に学べていないからだ!」 「何だと…?」 「お前たちの核実験失敗の件と、その後の世界のあり方…そして有り得ぬテロリストの存在の作成……俺は笑ったよ…」 「笑う?」 2人は喋りながら互いの銃と剣で反撃し合う。 レボリューションはイーヴィル・ストライクを射出した。次々と発射されたビームがムーヴに着弾したが、これはムーヴにはあまり痛手ではないようだ。 ムーヴは拡散ビーム砲でイーヴィル・ストライク数基を撃ち落とした後に赤外線を再び射出した。1本の赤外線がレボリューションを捕らえた。続いてミサイルを発射。 セイルは頭部のバルカン砲を討つが、回避されることは予想の範囲内だった。 レボリューションはビームサーベルを抜く。そしてミサイルに自ら接近した。ビームサーベルを逆手に持ち、タイミングを見計らいミサイル目掛けてサーベル自体を投げた。 ミサイルの人口AIも、これにはマニュアルにないらしく回避できないままビーム刃が突き刺し、ミサイルは爆発した。 「俺が笑うのは……自分を正しく認識できない物!己について錯覚しか持ち得ぬ愚かな行為にだ!!」 「認識できないだと?…理性的動物(ホモ・サピエンス)と言われている人間が!なぜ自分を正しく認識できないのかね!?可笑しい話だな!?セイル!!」 セイルはライフルを捨て、ビーム・G・ソードを構える。 「……先程も言ったが、経験に学ばないためだ。そもそも自分を知る、と言う事は、経験を通じて知る以外に知りようがないんだ。例えば…人生。人生とは無数の経験の集積と言ってよい。が、そうした日々の経験、他人の経験を見聞することから、人間はそれぞれに、自分についての意識を形成していくんだ。…しかし、人間は他人の経験どころか、自分の苦い体験でさえ、なかなか生かすことができない。よほど痛い目にあわない限り、経験のほとんどを忘却の淵へと投げ込んでしまう!!」 レボリューションはソードを振り下ろす。 それをムーヴはヴァイス・パニッシュで防ぐ。 再びセイルが口を開く。 「だが…その経験をどのように『自分』の中に取り入れるかによって当然自己認識は変わってくる!」 「…つまり、経験を十分に生かすことのできない人間は、決して正確な自分の姿はつかめないことになる…ということか。だから人は…繰り返すのか。自分だけでは収まらず…世界を巻き込み…」 「お前も分かっているハズだ!だからドルバックもイースターも殺した!」 「─それは認めよう…。だが!全ての原因は奴等なのだよ!」 「それを増大させたのは貴様だ!フォーラン!!自分を正しく認識できずに人類を巻き込んだ!」 セイルのビーム・G・ソードがムーヴの右腕を切断した。 しかしムーヴも拡散ビーム砲を発射し、レボリューションの左脚を吹き飛ばした。 そしてフォーランが口を開く。 「セイル…。あなたの言い分も少しは分かりますよ。しかし!それでは循環論証ではないか!?なぜ経験に学ぶことができないのか!?お前に分かるのか!?」 「……それも、人間が正しい自己認識を持たないためだ。」 「なぜ人間は正確に自分を知ることができない!?」 「経験を生かすことが不得手だからだ!」 「─!それでも…結局は堂々めぐりではないか!?」 再びムーヴは拡散ビーム砲を発射する。 レボリューションはビーム・G・ソードを盾代わりとして使った。重要な機関は守れても、両肩などの被弾は免れなかった。 「それでも…!俺たち人類は、この堂々めぐりの中で生きていくしかないんだ!だから歴史は繰り返されるんだ!」 「何を─!?」 「つまりは!人間はまず経験によって自分の意識を持ち始め、次に形作られた自己意識をさらに経験によって修正し、あるいは確認し、あるいは変質させていく!そして、その自我認識が再び経験による学び方を向上させる……。自分を知ること、経験を生かすことは、不即不離の関係を保っているんだ!」 「そ…それは!?」 「3つの輪廻…再生と進化、破壊に元づく事だ!3つの輪廻は人類の在り方…そして意識。俺は、地球を敵に回して…ようやく気づいた。お前に分かるか!?…分かるはずがない!いつまでも永遠に、経験から学ばず、進化だけを求めるお前には!!」 その頃、ライグランズから発進した2体のフォートムが居た。 「やはり…スパイルのダメージは大きかったな。フォートムで出撃した方が、早くセイルを援護できる。」 「でも…スパイルとフォートムでは大分…」 「大丈夫だ。ようは腕の問題だ。」 するとモロキのフォートムに通信が入った。 カナンからだった。 「大佐、前方を見てください。MSとフォーラン・アーズの戦闘空域…」 「あぁ。肉眼でも見える距離だ。─ッ!まずいぞ!このまま行けば大気圏に突入しちまう!!」 「はい!MAは良くても…MSでは─!」 「レボリューションに大気圏突入能力は無いハズだ…!急ぐぞ!レイル!」 「待ってください!」 突然、モロキにカナンから通信が入った。 「大佐…お願いがあります。ルフェス・リグ艦隊への通信コードをこちらに送ってください。」 「あぁ…まぁカナンなら…。」 モロキはライグランズにコードを送る。 「はい。確認しました。ありがとう…。」 モロキは再びカナンの笑顔を見る。 そして2体はフルスピードでセイル達の元へと向かう。 一方セイルとフォーランは徐々に大気圏へと突入していった。 「もうそのボロボロの機体でムーヴには太刀打ちできまい!」 「くッ─!」 フォーランと言うとおり、単機でのムーヴとの交戦は予想以上にレボリューションにダメージを与えていた。もうまともに戦うことはできない状態だ。 「『破壊』を実行するなど…させてたまるか!うわッ!!」 ムーヴを爆発が襲った。それによりフォーランは悲鳴をあげる。 両肩のミサイルパックが爆発したのだ。 大気圏突入の際の熱によってミサイルが誤爆してしまったのだ。 「ふ…どの道、あなたは死ぬ。もう大気圏に引きずり込まれている!!」 「構わない…!ブレイヴには悪いが…な。」 セイルは後のリニアシートで気を失っているブレイヴの姿を見る。 「フフフ…出来損ないの子供か…。」 「言うな!経験に学べないお前よりはマシだ!」 「ふん!経験を生かしたセイル・ギア?……ハハハ!笑わせる!過去を捨て、その捨てた過去の経験を生かしてそれか!?テロリストになど成り下がって!!」 「例え…過去の自分を否定してでも!自分の正体をハッキリ見定めた結果だ!」 「0からのスタートが、どれ程厳しいものか!テロリズムによって歴史が変えられた事は無く、またテロリズムによって時代が変わってはいけないという大前提がある以上、あなたの行動は正しくないし、英雄でもない。それはあなた自身が最もよく理解していると思うが…!?」 「そうだな…。だが俺は…ジング・シグマを完全に肯定している訳ではない!そして、今のままで行き過ぎた進化を見逃すよりはマシだ!」 セイルはビーム・G・ソードを構え、ムーヴに向かって突進する。 ムーヴは左腕のヴァイスパニッシュをビーム・G・ソードに向けて振り下ろす。 2つの剣がぶつかり合う…その瞬間にセイルはビームのエネルギー供給をカットした。 それによりヴァイス・パニッシュは何もない場所を切り裂いただけだった。 そして右足のバーニアとスラスターを巧みに使い、前方に機体を回転させ、再びビーム刃を形成。そのままムーヴのヘッドの下を突き刺した。 ムーヴの至る箇所が爆散して行く。コックピットにまで爆発は起きていた。 「うぉぉぉぉッ!!─うぅッ…!!!……ならば見届けてあげますよ!人類と……あなたが選んだ道を…!…再び…歴史は…くり……返す…の………だか…ら…!!」 「─フォーラン!!」 レボリューションはビーム・G・ソードを放す。 そしてムーヴは連鎖爆発を起こしながら、大気圏の中で大爆発を起こした。 「歴史は繰り返す……だから再び『進化』はくるんだよ…。フォーラン。」 その爆発はこの戦いに参加して全て人が見ていた。 ルフェスとキュアの2人もドス10番艦の中から見ていた。 「終わったな…。」 「えぇ。そして、これが0からのスタートとなる…。ルフェス?」 「…あぁ。戦いは続く…再生と……進化が訪れるまで。果たしてできるのだろうか…経験を生かし、0からのスタートが…」 「できるわ。きっと。」 「…だがテロリストが世界を統一して良いものかね…」 「どうしたの?」 「急に不安になっただけさ。…国家として生きる道もある…。」 すると議会軍の戦艦からの通信がドス10番艦に届いた。 「ルフェス・シグマ……聞こえますか?」 「─!!カナン?……カナン・リグ!?」 「お久しぶりです…兄さん。」 「何故、議会軍に?」 「はい…。また詳しい話は後程…。今は……話し合いを。全てはそれからです。」 するとルフェスは目を瞑り、しばらくした後、目を開く。 「─そうだな。そうしよう…カナン。」 全ての人が思ったであろう。『あの大爆発が、戦いの終わりを示した…』と。 その頃、議会軍総司令部のハワイ諸島を撃ったランド達は作戦成功に歓喜の声をあげていた。GODシールドによって津波は抑えられ、周辺への被害は免れた。それにフォーラン・アーズの死亡と、戦いが終わった報を聞いてフェダールの陣営は更に喜んでいた。 「ランド?終わったよ…。」 アルミーがブリッジへと上がったランドに声をかけた。 するとランドは笑う。 「これからだね…。私達は、経験を生かして生きていくことに決めたんだ…。例え、それが歴史を繰り返すことになろうとも…。」 「そうだね。それが責任よね。」 「宇宙に戻ろう…アルミー。これからが…大事なんだ。未来を見る目を失っちゃいけないんだ。『進化』はまた…」 ランドは目を瞑る。 (そうだよね……システム……グライス大佐!) 「…くッ─!駄目か…」 セイルはレボリューションのコックピットの中でブレイヴを抱きかかえながら、今の状況をどう解決すべきか悩んでいた。 大気圏に突入したレボリューションは突入能力を備えていない。それが仇となった。 (…やはり死ぬしかないのか…!……まぁ自分の罪を認めれば…当然の結果だな。すまない……メイス) セイルの意識は薄れつつあった。自然とブレイヴを抱く力も失われていく。 「…………セイル!」 セイルの耳に最後に聞こえた声は、モロキの叫びだった。 モロキは必死にセイルに呼びかけた。助けに行きたいがフォートムも大気圏突入能力はない。自分も犬死するだけだ。 しかし、モロキの声は、セイルには行き届かなかった。 するとレボリューションは爆発を起こしながら地球へと降下していった。 「─!セイル……セイルーーーーー!!!!!」 その後…議会軍、及びその政府とカナン。フェダールのルフェス・シグマ、ランド・セブ。仲介にセツルメント統合政府、キュア・アベーン等を迎えた3者会談の結果、戦いは3者の合意の下、可決し、戦いは終結。 議会軍の再構築を、フェダールと残存した議会軍が担当することになり、フェダールは一国家としての地位と権力を手に入れた。 世界は再び、『再生』を迎える為へと、共に歩み進もうとしていた。 これが正しい道へと進む、本当の姿なのかもしれない……。 |
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