エピローグ 「EVOLUTION」 残存した議会軍、一国家として成り立ったフェダール、そしてセツルメント統合軍等の3つの勢力は、和平交渉を再び進めると同時に、戦後の復旧・修復作業と、小規模の抵抗派グループ鎮圧へと乗り出していた。 議会軍へと戻ったモロキ・グレンとディスターブ隊。彼等を筆頭に、残存した議会軍と政府は、フェダール指揮の元、再構築へと歩みだしている。 ─北マリアナ諸島 観光名所として有名な北マリアナ諸島も、戦争の影響で活気を失っていた。そして議会軍と政府も、北マリアナ諸島の復旧も見送っていた。現在は、ほぼ無人化しており、空港や、衛星などの機能もまた、その活動を停止していた。 北マリアナ諸島の浜沖に一軒の家がある。その家から飛び出してきたのは、1組みの男女であった。 その後ろに、杖をついた老人と老婆がベランダから海を眺めている。 老人の目に止まったのは、空から降ってきた機械の塊だった。その塊のようなものは、海に落下した。 船に乗り、その塊に近づく1組の男女。 しばらくして、船が戻ってきた。1人の男が大声で話しているのを老人は気づいた。急いで身を乗り出して目と耳をかたむける。 「……さーん………この…と………」 微かではあるが、老人の耳に男の声が聞こえてきた。 老人は階段を下りて砂浜まで歩いた。すると船は沖にあがっていた。 男は1人の人間を抱きかかえて走ってくる。そして女の方は子供を抱えていた。 老人はその男が抱えてきた人間を見るや否や、杖を手放し、驚いた表情でその人間の顔をマジマジと見る。 ─議会軍 新総司令本部 オーストラリア タスマニア島 消滅した議会軍の総司令本部。新たに総司令本部創設の場所は、3者の合意の下、オーストラリアのタスマニア島に決定した。タスマニア島そのものを改造して作られる予定である。 ディスターブ隊の旗艦ライグランズも地球へと降り、残存した議会軍のリーダーとしての役割を受け持っていた。 艦長は、そのままカナン・ツムギが就いており、そこにモロキ・グレンを筆頭としたMS部隊。彼等を軸に議会軍はフェダール指揮の下、互いの意見を取りあいながら再構築へと歩みだしている。 ライグランズは新総司令部を建設中のタスマニア島へと航路をとっていた。 ライグランズ、ブリッジのキャプテンシートにはカナンが座っている。 ブリッジのドアが開き、モロキが入ってきた。 「もうタスマニアが見える距離まで来たかな…艦長?」 「今モニターに出します。ズーム画像お願い。」 カナンがクルーに伝え、そのクルーがズーム画像をモニターに出す。 それを見たモロキが口を開く。 「もう作業は始まっているんだな…。この後の予定は?」 「まず北西の港にライグランズを止めて、建設作業の状態を見ます。その後は、フェダールとの会議があります。」 「フッ…!大変だな。議会政府としてのカナン・シグマは。」 「私は、カナン・ツムギですよ。………ほとんどの高官達は死んでますからね…。生き延びているのは、穏健派の皆さんしかいませんし…。でも内部を変えられるチャンスでもありますよ。大佐。」 「そうか…」 モロキの言葉が詰まる。 何か言いたげな顔をしている。 そう察したカナンは微笑む。 するとモロキは勇気を出して口を開いた。 「………カナン!今忙しいのは分かってる。今の世界情勢も分かってるつもりだ。だが…俺は、あいつを…」 「分かっていますよ。大佐にはしばらくの休暇をあげます。その間、MS部隊の統制にはレイル少尉を着任させます。」 「すまない…カナン。」 「希望は捨てないで、大佐。そしてかならず戻ってくること……良いですね?」 するとモロキは首を縦に降り、走ってブリッジを出て行った。 地球の衛星軌道上にはMB−FRが軌道上を巡回移動している。その司令室にはルフェスとキュアの姿がある。 「ルフェス…もう私は、今のようにあなたに全面協力はできないわ。統合軍に戻らなくちゃ…」 「……そうか。」 「今なら、統合軍への違反行為を不問にしてくれるみたい。今の情勢には…感謝だけど。」 「君には本当に世話になったな…。」 「フフフ…それ言うの、何回目よ。時間がないから…これで。」 キュアが司令室の自動扉の前に立ち、扉が開く。 ルフェスも椅子から立ち上がる。 そしてルフェスが口を開こうとした瞬間、キュアが先に喋りだした。 「ルフェス。」 「!なんだね?」 「忘れないでね。ここまでサポートしてきたのは…幼馴染として、したことじゃないってこと。」 「……キュア。また会おう。」 キュアは右手を上げて司令室を後にした。 ルフェスは再び椅子に座る。そしてモニターには地球が映っている。 そして作戦以降、地球に留まっているランド達が居る、テレスへと通信をかけた。 「ランド……アルミー…聞こえるか?」 テレスは議会軍の新総司令本部が設立予定のオーストラリア タスマニア島の南西の港に駐留していた。 テレスのブリッジにルフェスからの通信が入る。 「ルフェス…?ランド!ルフェスからよ!」 アルミーがブリッジに居たランドを呼んだ。 回線を開くと、モニターにルフェスの姿が映し出された。 「ランド…アルミー、君たちは、そのままタスマニアに残り、現地調査とディスターブ隊との会議に出頭してくれ。」 「分かりました。」 アルミーが答える。そしてランドが口を開いた。 「…ルフェス、あの人のことは…良いのですか??」 「彼には悪いが…今はそのような余裕は無い。……だがモロキ・グレンが探索のリーダーをしてくれるという話がある。」 「モロキさんが!?………そうですね。モロキさんなら…きっと。それに生きています。あの人は…かならず。」 「あぁ…。─!すまない…別の通信が入った。では良い報告を期待する。」 ルフェスとの通信を終え、アルミーが口を開く。 「…ランド。システムは……?」 「彼は、もう居ない。でも、彼の意思、意識を私は継いだつもりさ。」 「そう…。ランド、当分は……子供作れそうにないわね。」 アルミーは笑った。 そしてランドも笑った。 その頃、ルフェスは別の相手からの通信回線を開いた。 「─!カナンか。」 「……兄さん。」 通信の相手はカナンだった。それはライグランズの通信室からのものだ。 「私がリグの家を出たのは、軍の中から変えようと…兄さんには内緒で。」 「………」 ルフェスとカナンは親違いの義理の兄弟である。親違いの為、年齢が離れている。 2度に渡り、シグマは戦争で敗れた。その影響は、ルフェス達にも及んでいた。 そして彼等は両親が殺され、逃げ惑っていた宇宙世紀0262の年、当時資産家で大富豪であったブルダ・リグとその妻、スチート・リグの2人に拾われた。リグ家はルフェスとカナンの素性を知った上で、2人を養子とした。それはルフェスが25歳、カナンが12歳の時であった。 その後、ルフェスはキュアと出会う。 その7年後、議会軍復旧の目処が立ってきていたその年、議会軍と政府は、各セツルメントへの政治的圧力を着々と進めていた。それはルフェスの里親であるリグ家にも及んでいた。その際、リグ家がかつてのシグマの忘れ形見2人を養子にしていた事実が判明し、ブルダとスチートは暗殺され、ルフェスとカナンは再び逃亡生活へとなることを余儀なくされる。 その際、リグ家の全資金を所持していたルフェスは密かに反攻グループを結成し、その機会を窺っていた。そのグループが後のFinal Winner Revolutions、通称フェダールである。 その武力でしか解決しようとするルフェス姿勢に反発したカナンは単身地球へ降り、カナン・ツムギの戸籍を手に入れ、議会軍へと所属したのだった。 「兄さんは、武力でしか解決しようとしていなかった。私は、それは間違っていると思った…」 「………」 「でも、時既に遅く、チャリンズの爆破事件が起きた…。」 「カナン…」 「そして気づいたときには、武力で解決するところまで来てしまっていた……。私が頑張って、兄さん達との話し合いの架け橋になればと…。そう思って議会軍に……なのに私は…無力だった!!そんなな自分が大嫌い…!小さい頃から兄さんに助けてもらってばかりで……。」 モニターの向こうでカナンが泣いている。 それを義理の兄であるルフェスは黙って見ているしかなかった。 「……きっと私は、そんな助けてもらってばかりなのが嫌だったんだと思うの。自分だけで何かしなきゃって。だから私は…」 「カナン。確かに、私は武力で解決しようとしか考えていなかった…。この戦いで数多くの犠牲者が出た。次の時代を担う若者達をも……本当に今は後悔している。だが…私達はこれからを考えなきゃならない。過去を悔やむのは、また後で良い。」 「兄さん…」 「だから、今度こそ、我々と議会軍の架け橋となってくれ…カナン。」 「……はい!」 カナンは涙を拭き取り、笑顔で返事をする。 その様子はパイロットスーツを着たモロキが通信室のドアの前で、腕を組みながら壁に寄りながら立っている。 その迷いの無いカナンの返事をドア越しに聞いたモロキは笑みをこぼし、MSデッキに向かって歩いていった。 ─北マリアナ諸島 ベッドに横になっている1人の男性と子供。 その横では、老人と男が椅子に座っている。 すると男が口を開いた。 「じいさん。この人はやっぱり…」 「……」 老人は黙っている。 その反応に男は疑問をもった。 「じいさん!分かってるだろ!?この人は…フェダールに…!」 「……分かっておる。ちと静かにせんか、リョウタ!!」 リョウタ・アイカワは口を塞いで椅子に再び座る。 リョウタ・アイカワはかつてブレイジング隊の旗艦、バラスート及びバラスートUの操舵手をしていた男である。彼はシグマ帝国との戦いが終わってからは、軍から身を引いている。 すると、女性がその部屋に入ってきた。 「まだ…目覚めないんですね。」 「あぁ。怪我の応急処置はしたし、息もある。気を失っているだけだよ、多分。」 「そう…。この少年…きっと息子さんね。」 「分かるの?」 「うん。だって…顔がそっくりじゃない?」 この女性はデュース・スーリン。リョウタと同じくかつてブレイジング隊で索敵反応をしていたブリッジ要員である。リョウタと同時期に軍を辞め、それからはリョウタと共に行動している。 すると、老人が呟く。 「……セイル・ギアか……。フフフ懐かしいのぉ。」 「ん?何か言った?シルニーじいさん?」 「いんや。何も。」 この家の主人であるこの老人はシルニー・アトン。この老人もブレイジング隊で整備班のリーダーとして活躍していた。リョウタ達と同時期に軍を退役し、昔の妻と再婚した。今は、その妻とリョウタ、デュースを連れて静かな生活を送っている。 その頃、ライグランズのMSデッキでは探索班のメンバーを乗せた小型シャトルとスパイルが出撃体制に入っていた。 スパイルに乗り込もうとするモロキを呼び止める者がいた。レイルだった。 「大佐!」 「レイル?どうした?」 「……彼を頼みます。私、あの子に言いたいこと…たくさんあります。」 「あぁ!任せろ。絶対、連れ戻してくる!それまで待っててくれ、レイル。」 そう言ってモロキはスパイルに乗り込んだ。 レイルはそのモロキの背中を見つめながら敬礼をする。 モロキが機体の主電源を入れていく。 「─宇宙のMB−FRから特別探索班が来る予定だ。シャトルは合流地点まで俺の後を着いてくれば良い。合流時間までそうもない、急ぐぞ!」 「はい!!」 探索班の元気な反応を聞いたモロキは笑う。 するとスパイルに通信が入ってきた。モニターにカナンが映る。その顔に迷いはないようにモロキは思えた。 「大佐。おそらく、墜落地点は太平洋沖のどこか…になってきますね。」 「あぁ、特にハワイから南西の場所は、諸島が数多くある。相当な時間がかかりそうだな。」 今のモロキに不安はない。彼が生きているのは当然だと考えているからだ。 しかし、大気圏でのあの爆発で生きている可能性は極めて低い。だがモロキは信じていた。 「大佐、もう1度言いますが、かならず戻ってきてください。待っています。」 「あぁ、その時は、『怪我人』と『少尉』も一緒にな。」 それから一夜が過ぎ、朝日が昇る。 既にシルニー達は各自の部屋で眠りについている。 (─!) 目に付いたのは、木製の天井。体を包むのは、海の香りと布団のぬくもり。 目を右に向けると、子供の顔。 子供の目が開いていく。その子供の目が左に流れた。 2人の目が合う。と同時に2人は笑みを浮かべる。 「おはよう…」 ─ユニバーセツルメント レストラン・ブレイジングでは今日も忙しく営業中だ。 そしてグローバーは料理長として働き、ミニンもマネージャーとして働いている。 メイスが休憩時間を利用し、テレビを付けた。テレビ内容はほとんどが、平和になった世界の特集ばかりだ。チャンネルを変えても、全部が同じ内容だと分かると、メイスはテレビを消した。 すると8歳の愛娘パルナ・ギアが休憩室にやってきた。 「ママ。あたし何か手伝おうか?」 「う〜ん、そうだねぇ。じゃママの肩叩き。」 「分かった!」 パルナはメイスの肩を叩き始めた。 思わずメイスから笑みがこぼれる。 「あぁ〜気持ちいい。ありがと、パルナ。じゃそろそろママ仕事だから。お部屋で待ってて。」 「はぁい。」 メイスは無邪気に走っていくパルナを見つめる。 (あなた…) メイスは涙を拭き取り、店の中へと入る。 太陽が昇り、2時間が過ぎた頃、シルニーが起き上がる。寝ている妻を起こさないよう静かに、寝室を出て彼等が居る部屋へと向かう。 ドアを開けると、男が平然と立っていた。 「……起きたか、セイル。」 シルニーは笑顔を見せ、ため息をつく。 しばらくしてリョウタとデュースも部屋に来た。しばらく振りの再会にリョウタは嬉しそうにセイルに近づいた。 そしてある程度の挨拶が終わった後、ブレイヴも含めた全員がベランダに移動する。 「……これからどうするんじゃ?一応、帰るのか?MB−FRとか言う所に。」 「分かりません…。宇宙に行くにも、MSが使えませんし、息子もいます。ここの島の空港は使えないと聞きました。」 「えぇ。ここの島に住んでるのも、僕等ぐらいしかいませんし。食料は海で取れますからね。僕たちもなんとか生活できてるって感じですし。」 「そうか……」 セイルが考え込んでいるのを見たシルニーが口を開く。 「セイル、確か家族は宇宙にいたな。」 「あ…はい。」 「では、宇宙に行け。そして子供を連れて帰れ。」 「あぁ!それ良いですよ!セイルさん!─ん?でも宇宙へ行く手段ないですよ。」 「ふん!シャトルぐらいこの家の地下にあるわい!!」 「な…何ですって!!??」 シルニーの家には地下倉庫がある。そこはリョウタ、デュースも入ったことがない場所だった。よもやその地下倉庫にシャトルがあるなんて夢にも思っていなかった。 ─北マリアナ諸島 サイパン国際空港 空港の管制室のドアを無理矢理抉じ開け、中に入るリョウタ、デュース。 その外では、シルニーとその妻のファイ・アトンがシャトルを眺めている。 「久しぶりだなぁ。機械を触るの。」 「大体は分かるわね。まだ機能が生きてて良かった。通信ボタンは……これね!」 シャトルの操縦室にセイルは居た。 モニターにデュースが映る。 「大丈夫ですね?大気圏を突破できるぐらいの燃料はありますからご安心を。補給は近くの無人ステーションでお願いします。」 「分かった。デュース、そしてリョウタ、ありがとう。『おっちゃん』にもよろしくな。」 「フフフ…また怒られますよ?では…また!」 セイルとブレイヴを乗せたシャトルが地球を発ってから約3時間が経過した頃、浜辺に1機のMSが現れた。 それを不信に思うリョウタ達。 そのMSの中から出てきたパイロットに一同は驚愕する。 「すいません…この人物を……って、お前等!」 「モロキ・グレン!モロキさんじゃないですか!?お久しぶりです。」 「リョウタ・アイカワに、デュース・スーリン!?シルニーさんもか!?……あぁ、そうだ。こいつ、セイル・ギアを見なかったか?」 ─5日後 「……レイ……お…ろ」 声が聞こえる。 「…ブレイヴ起きろ!」 ブレイヴは目を開ける。どうやら眠ってしまったみたいだ。 「…父さん?」 「もう少しでユニバーセツルメントだ。」 「あぁ…母さん達が居る。」 「そうだ。準備を進めろ。もうすぐ港だ。」 「はい…もう離れることはないね。」 「……そうだブレイヴ、皆ずっと一緒だ。」 「良かった…。」 特殊な強化を受け、シャドウ・ネィムとして生きていたブレイヴだが、救出されてからはこれといった後遺症もなく至って健康そのものであった。共にレボリューションの爆発から奇跡的に生き延びた2人に、安心からか笑顔がこぼれていた。 セイルとブレイヴを乗せたシャトルは港に止まり、中からセイル達が出てくる。 セイルとブレイヴの顔に涙はなかった。希望に満ち溢れていた。 そしてこの後、セイルとブレイヴ、そしてメイス達がどうなったかは、言うまでもないだろう。 宇宙に今、『破壊』が遂行された。再び世界が戦乱に染まるとき…それは『再生』がきた証であり、次に人々は『進化』する。 戦争が全てという訳ではない。だが、人々が意識が変わっていくのもまた事実。 歴史は繰り返し、そして進化して行く。全ては、自然のままに…。 |
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