第十六話 「セイル覚醒(前編)」


シグマ帝国の本拠地に当たるエンパイアセツルメントへの議会軍による総攻撃の準備が着々と進む中、ブレイジング隊は議会軍艦隊が集結しているセツルメントから少し離れた場所の警備任務に付いていた。
無論、シグマ帝国も議会軍の総攻撃が開始されるのが秒読み段階に入って居るのは知っている。
そのため、シグマ帝国も迎撃体制の準備を進めている。

今現在、地上から宇宙に上がってきたシグマの艦隊の一部がエンパイアに合流をしていない。ブレイジング隊がエンパイアに来るであろう敵艦隊の殲滅を議会軍から言われたので、警備をしているのだ。
敵艦隊の殲滅と言うのは、そう易々と出来るものではない。
そのため、議会軍はエース部隊のブレイジング隊を決戦前に手放すのは戦力が下がるため、出したくなかったのだが、敵の戦力が増えるのも避けたいため後に合流するようブレイジング隊をあえて手放したのだ。

「こちら、モロキ!周辺に敵機の反応無し!」
「こちら、ランド!こちらも敵機の反応は有りません。」
バラスートUのブリッジのメインモニターにモロキとランドが映し出される。
2人は前方の警備をしている。
「了解。すぐに、帰艦してください。」
ロムが指示を出す。
モロキとランドが乗った機体が艦橋に降りる。

〜エンパイアセツルメント〜
エンパイアセツルメント付近には、決戦を間近に控えたシグマ帝国の艦隊が集結し、整備と補給を受けていた。
その1つの戦艦にアーサーは乗艦していた。
「そうか。プロト2の操作は完了したか。」
アーサーは艦長席に座っている。どうやら、外見から博士のような人物と通信をしているようだ。
「ですが、プロト2を実戦導入というのは、少し早い気がしますが・・・?それに、完了したとは言いますが、最終段階は終わっていません。下手をすれば、洗脳が解ける可能性も出てしまいます。完全に完成したプロト1を出すべきでは?」
アーサーは鼻で笑いながら、ため息をつく。
「いいから、僕の言うとうりにしてくれれば、良いんだよ。プロト1はこちらに送ってくれ。それと、これから送る、伝言内容をプロト2の発進と同時にブレイジング隊に向けて流してくれ。」

セイルはR3のコックピットに居る。何やら機体のOSをいじくっているようだ。
そこに帰艦してきたモロキが入ってくる。
「よ!何やってんだ?」
「今度の戦い・・・シグマの数はかなりの数だと予測される。その分、いかに敵の数を撃墜できるかに勝敗が掛かってくる。だから、ビットで俺の視界外の敵を堕とすのに、どうすればビットを操作出来るかを考えていたんだが・・・。」
モロキは一旦、頭の中を整理する。
「ま・・まぁ、頑張れよ。」
モロキが苦笑いをしながら、セイルの肩を、ぽんと叩く。

〜バラスートU ブリッジ〜
「・・・これは!?艦長!敵です!シグマ帝国の艦隊が接近中です!!」
索敵をしていたデュースが叫ぶ。
「艦隊だと!?エンパイアから出てきた艦隊か!?」
グローバーがデュースの方を向き訊ねるが、デュースは違うと言う。
「では・・・、例の合流をしていない敵艦隊か・・・。」
グローバーが呟く。

MSデッキに非常時警報が鳴り響く。
セイルは急いで作業を止め、パイロットスーツを取りに行くためロッカーに向かった。
バラスートUから見て、前方に2隻敵艦が居るのが分った。
MS発進までは艦対戦になるだろう。
ブレイジング隊としては、決戦を前に被弾率は極力避けたいところである。
勿論、戦闘にも入りたくなかったし、敵とも遭遇はしたくなかった。
議会軍にも"敵が一足早く、エンパイアに合流した"と言えば、仕方ないで片付く。
敵艦の主砲から熱源を感知したため、I・フィールドβをバラスートUは艦全土に発生させ、防御体制に入る。

I・フィールドβとは、従来のI・フィールドの性能をアップさせたのがI・フィールドα。更に防御力をアップさせ、尚且つ、EN消費を極端に低くし、戦艦用に開発されたのがI・フィールドβである。

敵艦から発射されたビームがバラスートUに直撃する。が、I・フィールドβにより弾かれる。
それと同時に敵艦からのMS発進が確認される。
グローバーもMS発進を艦橋付近の作業員に言い渡す。

セイルは自分専用のパイロットスーツに腕を通し、首までチャックを上げる。
そして、ヘルメットを持ち、ロッカールームを後にする。
セイルは何か不思議な感覚を憶えた。
「なんだ・・。この感覚は・・・。暖かい・・・だが、冷たい力を感じる。こんなのは初めてだ。」
セイルは額の汗を腕で拭き取り、MSデッキに到着するやいなや、前方に居るグライスを呼んだ。
それに対しグライスが振り向く。
「グライス大佐・・。貴方は何か感じませんか?」
セイルは感じる何かをグライスに訊いてみた。
「いや、私は何も感じないが・・・?だが、君がそこまで震えているんだ。今後に予期せぬ事態が起こる事を想定したほうが良いかもしれんな。」
セイルはグライスに言われるまで自分が震えているのに気が付かなかった。
そして、セイルはR3のコックピットのシートに座る。
「予期せぬ事態・・・か。」
セイルが呟く。
グライスの01が発進したのが分った。
既に、Eと02の姿が無い。ランドとモロキも既に出撃していた。
セイルはカタパルトにR3の足を接続すると、ヘルメットのスコープを下げ、目の色を変える。
「R3、セイル・ギア出るぞ!!」

一方、敵艦からMSが新たに1機発進した。
「では、プロト02。君の任務は何かね?」
先ほど、アーサーと通信をしていた博士が艦橋から、そのMSパイロットに訊く。
「ブレイジング隊を・・・セイル・ギアを堕とす事・・・。」

〜バラスートU ブリッジ〜
「敵艦より、新たにMS発進を確認!!・・・嘘・・・、そんな!?」
索敵をしていたデュースが呟く。
「どうした!?」
グローバーがデュースの異変に気付き、何が起きたのかを訊いた。
「形式照合をした結果・・・。敵艦から、発進したのは・・・GR−03です!!」
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