第十七話 「セイル覚醒(後編)」


「GR−03・・だと!?」
セイルはデュースの発言に冷や汗をかく。
たしかに、敵艦から出てきたのはGR−03だ。
だが、セイルは決してメイスがブレイジング隊を裏切るとは思えない。勿論、それはセイルだけではなく、ブレイジング隊員全員もだ。
「やぁ、ブレイジング隊の諸君。」
バラスートUと各MSのメインモニターに流れて居るのはアーサー・ゲイルの声明のような映像だった。
ロムは解析してみるが、前方の敵艦にはアーサーは乗艦しておらず、エンパイアで指揮をしている。と、言う事は、この映像は伝言内容を取り入れた定期メールだ。
「どうだね?GR−03とその、パイロットのプロト02・・・いや、メイス・キルリが敵になった気分は?」
全員が驚きを隠せない表情をしている。
(そうか・・・、先ほどの変な気分は、メイスから・・・。)
セイルが眉を細める。
気付くと、敵MS群は後退しGR−03の前方に集合していた。
「セイル・ギア・・・。お前には、ここで死んでもらう!」
メイスからセイルに通信が来た。
「何・・・!?」
メイスの目の色は不自然に青い。こんなメイスをセイルは今まで見た事が無い。
更に、画面の向こうから伝わってくる、絶望・恐怖がセイルには分った。
アーサーの伝言はまだ止まらない。
「ふふふ。どうだね?セイル・ギア?彼女は、シグマ帝国の最新の技術により、彼女は洗脳されているのだよ。・・・君の事は全て聞かせてもらったよ。どうも、彼女との釣り合いが良くなかったみたいだな・・・。」

"洗脳"
この言葉に隊員全てが驚く。
特にグライスはその洗脳を良く知っている。

「私は苦しかった・・・。貴方が変わってから、ずっと苦しかった・・・。もう、苦しい思いは嫌なの!!だから・・・苦しくならないなら、セイル・ギアを殺すしかないのよ!!」
その言葉は隊員全員に聞こえている。
反論するものは居ない。
居ないと言うのも、納得したからではなく、メイスが洗脳によって出された、迫力に負けているからだ。
今まで黙っていたセイルが口を開く。
「そうか・・・。」
「今、殺してあげるわ!セイル!そして私はアーサー・ゲイル様と人類進化計画を実行するの!!」
既に、キレかかっているランドとモロキ。
だが、以前セイルは口を開いて言うものは、どこか釈然としない。
「ならば、来い。相手になってやる・・・!」
「・・セイル大尉!!どうして、怒らないんですか!?セイル大尉にとって大事な人が、アーサー・ゲイルに洗脳されてシグマ帝国の戦力になっているんですよ!?」
その言動にランドは反論する。
Eガンダムがセイルの元に向かうとすると、横から左手でEを止める02、モロキだった。
「奴はもう、既にキレてるよ。感じないのか?セイルからはちきれんばかりの怒りの感情を?・・俺達は、セイルが突っ込んだ後、03じゃなく、周辺の敵機撃墜を行う。行くぞ!」
R3がブースターを起動させ、敵陣に突っ込んでゆく。
それと同時にモロキやグライス達がセイルの後を追うように敵陣に突っ込む。

R3の目の前をヴーイッグズ達がライフルを乱射する。
「邪魔をするな・・・。」
セイルはライフルを連射した後、ビットを射出する。
敵MS達はビームに引き込まれるように直撃し撃墜されて行く。
セイルの攻撃を逃れた1機のヴーイッグズがサーベルを抜き突撃して来る。
勿論、セイルもサーベルを抜き、ヴーイッグズのサーベルにふつけ、右手のライフルでコックピット部分を打ち抜く。
尚、セイルは止まらない。
今までのセイルとは違うような動きをするのに対し、グライスやモロキは冷や汗と、"自分が相手をしたら、勝てない"と言う恐怖に見舞われながらも、敵MSを堕として行く。

セイルの周りをヴーイッグズ達が囲むと同時にライフルを連射する。
次々とありえない速さで回避をするセイルのR3。
「敵の数は多い・・・。後ろの敵までは堕とすのは困難か・・・だが!!」
セイルはビットを再び射出し、ライフルを乱射し敵を堕として行く。ビットを後方に向かわせる。本来なら、ビットは敵を確認した上で、そのパイロットの脳波で動くのだが、レーダーでしか確認できない後ろの敵を堕とすのは非常に難しい。
セイルは前進する。
(ビット!後方の敵を殲滅させる!)
セイルの意思と脳波がビットに伝わり、ビットはセイルの指示どうりに動き、敵を堕として行く。
それを見たグライスはセイル自身に秘められた能力に、手が震える。
「見つけたぞ・・・。メイス。」
セイルのモニターに03が見える距離まで近づいていた。
「セイル・・・ギア!!」
03はガトリングガンを乱射する。
なかなか03にセイルは近づけないため、苛立つ。
セイルはメイスへの通信を試みた。
「メイス!正気になれ!!」
「私は正気よ!洗脳なんてされなくても私は正気なのよ!!」
03のバックパックのG・キャノンが展開される。
それを見たセイルは念のためビームシールドを展開する。
「死ね!セイル!!」
03のG・キャノンからビームが発射される。
セイルはギリギリ回避する。
セイルは改めてメイスの射撃能力の高さを認識する。
「くっ!」
G・キャノンをギリギリで回避したため、R3の少しの衝撃が走る。
「私は苦しかった!2年前・・・たとえ戦争中でも、セイルと居られて楽しかった!・・でも、今は違う!戦争しか眼に見えてみなくて、シグマ帝国を壊滅させる事しか考えていないで!・・我慢して来た私の気持ちが分るの!?セイルが変わってから、セイルと居ることが楽しみから苦痛に変わってきたのが良く分る!だから、もう苦しい思いは嫌なのよ!この呪いから助かるためには、貴方を殺すしかないのよ!!」
03の攻撃にセイルは回避しているだけだった。セイルには分った。03から繰り出される攻撃、一つ一つにメイスの本能が想い込められている事を。

セイルはメイスの攻撃が止むのを見ると、セイルのR3も動きを止め、ライフルを捨てる。
「・・すまなかった・・・。お前がそんな事を思っていたこと・・・気付かなかった。」
セイルが言ったことを確認すると、メイスはガトリングガンをR3に向ける。
「いつも・・・いつもそう!!昔のセイルだったら、分ってくれた・・・気付いてくれたよ!!」
03のガトリングガンが火を噴く。
そのビーム弾はR3の右腕を破壊する。
「ぐっ!メイス・・・?」
メイスの瞳には光るものが貯まっている。
涙だ。
「そんなだから・・・・セイル・・・私は貴方を・・・」
セイルはビットで03の頭部を破壊し、03のカメラアイを無効にした。これでは、メイスもむやみに攻撃するしかない。
「メイス!バラスートUに・・・俺たちの母艦に帰ろう!!」
R3が03に接近する。
メイスはセイルが接近するのをレーダーで確認すると、ガトリングガンを回りに乱射する。
だが、勿論セイルには当たらない。何故なら、03の真後ろに居るからだ。
メイスからレーダーを見れば、03のマークに敵のマークが重なっていたため、セイルが03の近くに居るのは判断できたが、どの方角にいるのだけは分らなかった。
「嫌よ!セイルが居る艦に戻るなんて・・また苦しい思いをしたくないから!!」
以前、ガトリングガンからはビーム弾が乱射されている。
03にR3が後ろから03を捕まえるように抱きかかえる。
「止めろ、メイス!!」
セイルが叫ぶと、メイスは少し黙り、沈黙が2分ほど続く。
「もう、来ないで・・。今、自爆するから・・・。」
急にメイスの言葉から、迫力が消えた。いつものメイスの言動に戻った。
洗脳され、セイルに迷惑をかけたことを償い、自分だけ死ぬと。それは、セイルに対する優しさがあったためだ。
「メイス!?まさか・・・。」
セイルはその言動にメイスの洗脳は解けたと判断し、とっさにコックピット部分にフレームを壊し、手を入れる。メイスを救出するためだ。
そのセイルの行為を見たメイスから貯まっていた涙が一気にこぼれていた。
(ごめんね・・・セイル・・・。)
メイスは自爆ボタンを押した。
「メイス!!」

〜20分後〜
敵艦は撤退し、一通り戦闘は終わった。そして、バラスートUはエンパイアへと航路をとる。

〜セイルの部屋〜
「んん・・・、あっ・・。」
メイスは意識が戻り、眼を開けると目の前にはセイルが居た。メイスは何があったのかを思い出しながら、体を起こす。
「わ・・たし、・・セイル?」
セイルは笑っていた。それはメイスが見る、久しぶりのセイルの笑顔だった。
そして、メイスは今までの出来事がビデオの早送りのように甦る。
「私!・・・セイル!!私は・・」
メイスが口ごもる。その時、セイルはメイスを抱きしめた。
それに対し、頬を赤くするメイス。
「お帰り・・・、メイス。」
セイルの呟いたような小さい声がメイスの耳に入り、今までの分を出すかのように、メイスの瞳に光るものが貯まる。
「泣いても良いんだ・・。メイス。」
セイルの止めの一撃と言わんばかりに、メイスはセイルの言葉を聞き、セイルの胸の中で大声で泣いた。

メイスが泣き止む頃、セイルはそっと、メイスに唇に自分の唇を重ねた。
BACK     目次     NEXT