第十八話 「安らかな休息」


意識も無事戻ったメイスは、グライス、グローバーから愚問を受けていた。部屋の片隅には両腕を組んで立っているセイルが居る。
「そこで、私の頭の中に渦巻く想いを見られ、それにあった洗脳を行われました・・・。セイルを殺すと言う・・・。」
グライスはアーサーがメイスに行った洗脳に怒りを覚え、自然と力が入る。
「・・だが、何故、メイス少尉が洗脳の対象に?」
グローバーがメイスに訊く。
「アーサー・ゲイルが言うには、洗脳するのは男性より、女性がさせやすいと言っていました。」
メイスの瞳から、洗脳を受けた恐怖と絶望が感じられる。
セイルにはその場の空気は重く、すぐに部屋を出たい気分でいっぱいだった。だが、メイスも必死になって思い出したくも無い出来事を思い出し、自分たちに話しているのに自分だけ部屋を出る、と言うわけには行かない。セイルは最後までメイスの証言を聞こうと思った。
メイスの答えにグライスが口を開く。
「たしかに・・このブレイジング隊に女性パイロットで腕が立つと言えば、メイス少尉だ。シグマ帝国の情報網なら分っていて当然か・・・。」
「そうか。では、ここで愚問を終了する。すまなかったな、メイス少尉。」
グローバーが立つと同時にメイスが立つ。そして、セイルも額の汗を拭き取り、部屋を後にしようとすると、メイスは何かを思い出したのような顔つきになる。
「どうした?メイス少尉?」
それに気付いたグライスがメイスに訊く。
「あっ・・・はい。私のほかにも、もう1人、洗脳を受けていた少女がいたような・・・。」
それを聞いたグローバーが口を開く。
「それでは、まだ警戒が必要だな。いくらその記憶があやふやとはいえ、確率が決して低い訳では無いからな。」

〜MSデッキ〜
愚問を終え、セイルはMSデッキを訪れた。
さきほどの戦闘で、R3はほぼ大破状態。回収されたGR−03は自爆により、予備パーツと代用品で急ピッチで修理中。決戦をまじかにセイルとメイスの機体が使用不可と言うのは痛手ではあるが、セイルからして見ればメイスを助けられたため、機体の使用不可と言うのは、どちらかと言えば、そんなに問題は無い。今は、メイスが生きているだけで嬉しいのだ。
「あれ!?セイル・・鼻の横の傷・・・。」
近くに居たモロキがセイルの傷を指差しながら流れてくる。
「傷がどうかしたか?」
セイルが傷の部分を触る。
「いや・・・俺の見間違いかも、しれないが・・傷が少し治ってるぞ。」
モロキの発言に周りの作業員が集まってくる。
「セイル大尉!良かったですね!!」
「あっ!ホントだ!!」
「どうしたんだろう?2年間も、同じ状態だったのに・・。」
作業員達の言葉がモロキの存在を隠す。
「こら!!バカ共達が!!はやく、仕事に戻らんか!!」
作業員たちの後ろでシルニーの怒声が聞こえる。作業員たちは急いで持ち場に戻る。
「セイル。医務室で見てきてもらいなさい。」
シルニーがメガホンでセイルを指す。

〜医務室〜
「本当だ・・・。少し癒えているな・・・。」
先生はあっけらかんとした顔でセイルを見る。
「あら、ホントだわ。マリマ、見て御覧なさいよ。」
ローレンスが横から入る。
「すっご〜い!セイル大尉、良かったですね。」
マリマはセイルの傷が治ったため、少しはしゃぐ。まぁ、マリマはまだ10歳も半ばだから、まだ心は優しい。医務室の手伝いをするようになってから、病気や怪我で訪れる軍人達の世話を真面目にしているので軍人からの評価も高く、今や、医務室の看板娘として名を馳せている。「私、将来はお医者さんになる!!」なんて言うものだ。
「とにかく、傷が癒えてるのは確かなんですね?」
ローレンス達が随分とまじまじと見るので恥ずかしくなったセイルはこの場を出るため、先生に結論を訊く。
「あぁ、あと半年もすれば、完全に治るだろう。ふふ・・何か、心境が変化でもしたかな。」

たしかに、セイル自身も自分の中で何かが変わった感じはしていた。何か、恥ずかしいと言うか、懐かしいと言うか・・・言葉では良く分らない感じである。
「・・さて、メイスの様子でも見てくるかな。」
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