第十九話 「高まる緊張」


議会軍総攻撃の迎撃体制が完了した、エンパイア付近のシグマ帝国艦隊。その内の1隻の艦にアーサーは自分のMSと共に乗艦していた。
「そうか・・・。プロト2は失敗に終わったか。では、この時間帯にプロト1の強化をより強めておけ。」
アーサーは再び、博士との通信をしていた。博士が眉を細める。
「了解しましたが、これ以上強めたりしましたら、逆にこちら側からの命令も聞かない、暴走状態に陥る可能性が出ますが?」
「構わんよ。なったらなったで、対応策は考えてある。とにかく、議会軍とブレイジング隊が攻めてくるギリギリまで強化を強めておけよ。」

〜バラスートU〜
既に、議会軍艦隊が出港し、あと10時間で戦闘が開始される。ブレイジング隊も修理と補給を加えながら、エンパイアに向かっていた。

そう、そうだ・・・。あの時、2年前、小惑星が落ちたのは、俺の力不足。それに、マックス少佐が死んだのも、俺がジングを倒すのに手間取ったからだ・・・。
だから、俺は非常になる事に決めた。これ以上の犠牲を出さないためにも、メイスや周りの事は考えずに、今の戦争の事だけを考えれば良い。・・・俺は、それで良いと思っていた。

「入るぞ。」
セイルがメイスの部屋のドアをノックし、扉が開く。
「えっ!・・あっ!・・セイル・・!?」
メイスは1人ソファーに腰掛けていた。何か思いつめていたのか、セイルが入ってきたことに気付くのが遅かった。
「どうした?」
セイルがそのメイスの動作に疑問を感じ、訊く。
メイスが立ち上がる。
「ううん・・・。その・・セイルが、私の部屋に入ってくるなんて・・随分と久しぶりだから。嬉しいって言うか、恥ずかしいって言うか・・へへ。まぁ、座って。」
メイスはセイルをソファーに座らせると、水を汲む為台所に向かう。
セイルにとって、久しぶりに来たメイスの部屋。全然、変わっていない所もあったり、テレビの場所が変わっていたり。良く見ると、テレビの上には、2年前、戦後の後に2人で撮った写真が飾ってあった。
メイスがコップに入った水を持ってくる。
「どうして、急に私の部屋に来たの?」
メイスがソファーに腰掛け、コップを棚に置く。
「いや・・お前の状態が気になってな。見た限りでは、元気そうだし、要らん心配だったようだな。」
セイルは立ち上がり、その場を出ようとすると、メイスが止める。
「私・・言ったんでしょ?」
「・・あぁ。」
セイルが即答する。
「洗脳操作を受けると、その人間の感情がむき出しになって、嘘を言えなくなるって言うの・・・だから、セイルには悪いけど、私は本当に苦しくて、苦しくて・・・。」
メイスが口ごもる。
実際、セイルには何てメイスに言えば良いのかが分らなかった。
「ごめんね・・・、こんな事、言うつもりじゃなかったんだけど、どうしてもセイルに訊きたくて・・・。セイルは、私を見てくれていますか?・・教えてください・・。」
メイスの言葉に涙が混じる。
「じゃあ、俺が質問する。俺は今、以前と変わっているか?・・変わっているのなら、俺はお前を常に見ている。」
セイルが振り返り、メイスに目線を合わせる。
メイスはセイルと言う人間を見る。そして、メイスが口を開く。
「・・変わった・・。変わったね・・と、言うより、元に戻ったかな?」
「そうか。メイスが言うのだから、そうなのだろうな。気付いたか?この傷が少し癒えている事を?」
セイルが指で傷を指す。
メイスがセイルに顔を寄せ、じろりと見る。
「う〜ん・・・。少し、治ったね。良かったね。」
メイスがにっこりと笑う。セイル自信もメイスの笑顔を見るのは久しぶりかもしりない。

〜MSデッキ〜
「何?これ?」
Eガンダムを見上げるランド。
そのランドにジョーニアスが近寄ってくる。
「これか?これは、最終決戦用にEガンダムに追加装甲・火力を加えたアーマーパーツだってよ。」
確かに、Eガンダムには物騒な程の厚い装甲が取り付けられていた。良く見ると、至る所にハッチが開放すると言わんばかりの場所がある。
「そんで、あのハッチの中には、ミサイルが入ってるんだとよ。たしか・・・赤外線ミサイルランチャー・・・だったけ?ヨンル?」
近くで荷物運びをしていたヨンルにジョーニアスが訊く。
こう言う事は、さすがメカマニアのヨンルだけあって詳しい。
「そうだよ。その装甲には、赤外線装置が付いていて、ハッチが開くと同時に赤外線が放出されて、その赤外線が指す方向にミサイルが飛んでいく代物だってさ。何でも、制作に時間が掛かったらしいよ。だから、今になって付くんじゃない。」
そう言うと、ヨンルは再び荷物を運び出した。
「へぇ〜。じゃあ、かなりの火力がアップする訳か。」
そうは言ったものの、ランドには1つだけ疑問があった。
「ねぇ。ジョーニアス。その装甲のせいで、機動力が落ちたりするんだろ?それじゃ、いくら装甲が厚くったって狙い撃ちにされちゃうよ・・。」
「安心しろよ。ほら、アレを見ろ。」
ジョーニアスが指した方向には、何やら、大型のブースターがあった。
「あのブースターもEに付けるんだとよ。これで、機動性の減少は解決されたわけだ。後は、お前の腕次第だな。」
ジョーニアスが笑いながらランドの肩に手を乗せる。
だが、実際戦う身のランドにとっては、笑えない状況だ。
戦争中、戦場に出る人間は常に死と隣り合わせなのだから。勿論、一般市民もバラスートUに乗っているジョーニアス達もだ。

〜バラスートU ブリッジ〜
「では、R3、03共に修理は終わったんですね。」
「あぁ。メイス少尉も段々と安心して来ている。」
グローバーとグライスがブリッジで話している。
半舷休息の為、ブリッジ内のクルーはほとんど居なかった。
グローバーは、グライスの階級よりは上でも、かつての上司には敬語で喋っている。
「さて、決戦までは、残り9時間か・・・。」
グライスが呟く。
その発言は、グライスの緊張の証だった。
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