第十三話 「ジングの罠」


ブレイジング隊は先ほどの敵艦を撃墜し、シグマセツルメントに航路を変更しようとしていた。

〜MSデッキ〜
「あ〜あ・・このダメージでは、パワードはもう使えないわ・・・。」
ハーニアが呆れた口調で言った。その隣には、アレンが居た。
「そう言わないの!セイル少尉だって、必死に戦ってんですから。それに、まだスナイパーだってあるでしょ?」
アレンがR2の膝の部分に立つ。
「たしかに、そうですけど・・・。最終決戦前に、パワードが使えないとなると・・・。」
「俺たちはメカニックだ!だったらパワードが使えない今!R2を万全の状態で出すのが、俺たちの役目のはずだろ!?仕官学校で習わなかったのか!?」
アレンがあごと指で他の作業員に指示を出しながら、文句を言うように言った。
その発言はハーニアを驚愕させた。
(そうだ・・・私は大切な事を忘れていたわ・・。)

〜バラスート ブリッチ〜
「これは・・・!?」
グローバーの仰天した声が聞こえた。
「おかしいです、今まで感知されていなかったなんて・・・。」
続いてロムも呟く。
メインスクリーンに出たのは、ハワイ諸島本部からの画像メールだった。そこには、巨大な隕石が映っていた。
「ただの漂流隕石か・・・それとも。」
グローバーが腕を組む。

30分後、ベンデセツルメントを出港した議会軍艦隊からの通信が入ってきた。
「グローバー艦長、我が艦隊は、あと数分で戦闘区域に到達する予定だ。ブレイジング隊も早急に・・・つっ!!何だ!?」
艦に衝撃が走った。
「か・・艦長!敵艦が打ってきました!!」
通信の向こうで悲鳴に似た声が聞こえた。
「ば・・・馬鹿な!シグマが何故、我らの攻撃を・・・。」
艦長が驚くのも無理はない。この議会軍の攻撃は上層部の急な決断で、この攻撃内容を知っているのは議会軍のみであり、シグマには一切知らされていなかったのだ。
「第4艦、撃沈!ここは引きますか!?」
「引くな!敵艦は少ない!なんとしても、シグマセツルメントを破壊せよ!・・・グローバー艦長、ブレイジング隊も早急に合流を!!」
艦長が怒声を上げた。
そして、通信は切れてしまった。
「バラスート!全速前進!MSの修理と補給を早く終わらせろ!」
グローバーも緊急事態のため怒声を上げた。
「艦長!!」
突然、ロムが叫んだ。
「どうした!」
「これを見てください!!」
ロムが正面モニターにさきほどの隕石の画像を出した。
「!!そんな馬鹿な!」
グローバーが仰天した。なんと、隕石には核パルスエンジンが付いていて、それが機動していたのだ。その周りには、シグマの新造戦艦、スラルが一隻とローリンが五隻居た。
「隕石では無く、小惑星基地だったのか!?ロム、この小惑星は何処に向かっている!!」
グローバーが怒声を上げ、額を汗が流れた。
「現在の情報では・・地球の大気圏外にはある・・・。!!このまま、まっすぐ進めば!地球のハワイ諸島に落下します!!」
この発言がブリッジクルーに衝撃を与えた。

「ハワイ諸島だと!?議会軍の本部に・・・。ジング・・やってくれる!!」
グローバーが艦長席を立った。
「・・バラスートは進路変更、これよりポイント0098に向かう。リョウタ曹長、0098ポイントまで、艦を!」
グローバーが手の力を緩め、再び艦長席に座る。
「しかし!我々は、シグマセツルメントへの参戦命令が・・!!」
グローバーの指示にロムが反論した。
「議会軍本部がやられては!、元も子もない!反論は許さん!!」
グローバーは今までにない形相をしロムを含めたクルー全員に言った。
「・・了解です。」
ロムはグローバーの顔を見て。納得したのだろうか、席に座り、直ぐに艦内通信を行なった。

〜MSデッキ〜
「何だって!?進路変更だと!?これじゃあ、命令違反なんじゃ・・・。」
最初に声を上げたのはモロキだった。
「艦長命令なんじゃ。あの映像を見れば、我々が行くしかあるまい。地球のほとんどの艦隊は宇宙に上がって、シグマセツルメントに攻撃してるんじゃ。今行けるのは、ブレイジング隊だけじゃし。」
シルニーがモロキをメガホンで頭を軽く叩いた。
そこにセイルが駆け寄ってきた。
「どうした?ニュータイプ?何かプレッシャーでも感じるか?」
モロキが冗談混じりで言った。"混じり"と言うのは、今後の戦いが激戦なのかを確かめるためであり、セイルがプレッシャーを"感じる"と言えば、おそらく、ニュータイプが居て、戦いが厳しくなると、モロキは考えていた。
「やめてくれ、モロキ。俺はニュータイプじゃない。たしかに、なんか・・すっきりしない気分だけど。」
「あっそ。だが、相手は小惑星基地だ。破壊は難しいぜ。」
モロキはその場を後にした。
(すまない・・・モロキ。お前に心配は掛けられねぇよ。ジングが・・・ジング・シグマが居るのが、はっきり分る。)

〜ブリッジ〜
「艦長、地球に残っている太平洋艦隊の総司令官ビギンズ少将からの通信です。」
「命令無視を言いに来たか!?ビギンズ。」
サブモニターにグローバーは映した。あまり大画面でビギンズの顔を見たくなかったからだ。
「久しぶりだな。さて、この航路変更と言う命令違反に付いてだが・・・グローバー艦長、その航路変更の判断はすばらしいものだ。」
グローバーの予測とは違って、いきなり褒めてきた。
「なら、そちらも本部からの宇宙に上がれ、と命令が出るはず!」
「その命令は我々も言われている。だが、こちらも急に宇宙へ上がれと言われても、そんな急には上がれんよ!」
グローバーが眉を細めた。
「・・・では、我々だけであの小惑星を破壊しろと?」
「我々も早急に手は打つがな。健闘を祈るぞ。まぁ、エースパイロットが揃いに揃っているブレイジング隊なら、なんとかなるかもな。」
そう言って。ビギンズは通信を強引に切った。
「・・ビギンズの考え方・・・20年前の議会軍となんら変わってはいない!!」

〜20分後〜
「ロム、小惑星はどうなっている!?」
よりグローバーの口調に苛立ちが感じられてきた。
「現在、ハワイ本部直撃まで、あと3時間と言ったところでしょうか。」
「3時間か・・・バラスートが小惑星への到着までは!?」
更にグローバーが問う。
「はい、あと30分です。MS部隊を準備させた方が良いかと。」
「うむ。そうだな。」
グローバーが通信ボタンをMSデッキに繋いだ。
「MSパイロットは、直ちに出撃準備をせよ!いいか!あの小惑星を我々だけで破壊する!」
「親父が・・・直接通信を・・・。」
艦長が通信をしてくるなど滅多に無いことなので、各員は仰天していた。

そして・・・

「戦闘区域到達!!敵のMS発進を確認!」
ロムが叫んだ。
「MS部隊発進!!なんとしても、あの小惑星を破壊せよ!!」

〜MSデッキ〜
次々と発進して行くラ・ムジィック。R2はスナイパーパーツを換装していた。
「セイル少尉!換装終了です!」
アレンの声が沈黙していたコックピット内に響いた。
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